Uberland ウーバーランド ―アルゴリズムはいかに働き方を変えているか―
- 作者: アレックス・ローゼンブラット,飯嶋貴子
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2019/07/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Uberのウリは便利なタクシーの配車というよりかは(普通のタクシーより安くて、アプリで目的地の指定も支払いもできるし、便利だけど)、本人確認が通って車さえ持っていれば、誰でもUberの運転手として個人事業主的に働くことができる手軽さにある。そのおかげで、プロの運転手でなくても日中は別の仕事をして、夜数時間だけ働くとか、セカンドワーク的に金を稼ぐこともできるし、一日好きな時間だけ働くメインの仕事として稼ぐこともできる、それも営業など一切せず、アプリからの通知、アルゴリズムに従って客をとってくるだけで、確実に仕事があり、振り込みがある。
そういう点で、ありがたいアプリ、サービスであることは疑いないことではあるのだけれども、いい話ばかりでもない。本書『Uberland ウーバーランド アルゴリズムはいかに働き方を変えているか』は、ニューヨーク大学の研究機関に身を置く著者が、125人ものドライバーたちにインタビューを行い、4年の歳月をかけてUberのアルゴリズムと、翻弄されるドライバーたちの有り様を描き出していく一冊だ。
アルゴリズム上司とどう付き合っていくべきなのか
そんなUberの実態だが、結論からいえばUber(と、その裏側で動いているアルゴリズム)は決して善というわけではなく、気まぐれで実験的で、ドライバーたちの都合は必ずしも考慮されず、ま、簡単に表現すると「けっこう悪い」ことをやっている、側面もある。では、実際問題Uberのアルゴリズムはどのようなことをやっているのか、何がドライバーたちを苦しめて(いるばかりでもないが)いるのか──といったことについて、本書は実地の言葉を通して取り上げていってくれる。
日本にはUber自体はほぼ上陸していないとはいえ、フードデリバリーを行うUberEatsの方では働いている人が多くいるから(渋谷を歩いていると特徴的なUber eatsのマークをつけている自転車をよく見かける)この件については他人事ではないし、そもそもアルゴリズムが労働者の実質的な上司や先導者となって、我々はそれといい感じに付き合っていかないといけないという点では、もはやUberに限った話ではないんだよね。アルゴリズム上司は今後どんどん増えていくんだから。
良い点悪い点
Uberから仕事を受ける側には無論、いい面がある。副業として、特に何もやることがない暇な時にちょっと稼ぐ、しかも人付き合いが好きで、新しい人と出会うのがとても、車の運転(uber eatsなら自転車)も好きだ──という人には絶好のお金稼ぎにして趣味になりえるだろう。専業でそれをやろうという人にとっても、自分で働く時間を完全に決める権利があり、実質的には起業家なのだ、とUberは煽り立てる。
実際、自由を感じるUberドライバーもいるが、実態は自由とは程遠い。Uber(ウーバー・テクノロジーズ)は、人間の管理職の代替としてアプリのアルゴリズムを通して労働者の行動を管理しようとする。たとえば、Uberは、ある場所の顧客に対して車の供給が少ないなどして需給のバランスが崩れると仕事に追加報酬を自動で設定するが、これは実質的なシフト業務として機能する。この特別割増を狙って、あえてピックアップしないなどの行動をとるとサージ操作といってペナルティを喰らうこともあるが、これも完全にアルゴリズムの采配によるものだ。乗客を拒否すると減点されるのに、今通知がきている顧客がどこにいくのか、どんな人物なのかといった情報はドライバーに対して与えられないから、不完全な情報で判断を迫られる。
ドライバーは5つ星で管理されているが、たまたま載せた客が暴言を吐く、暴力をふるう、ハラスメントを行うといった行為で下ろし、レビューで悪口を書かれても対応してくれるわけではない。「それがあなたの評価なのだ」というわけだ。だから実際には下ろしたくとも、文句を言いたくても、評定を落としたくないがためにじっと我慢して愛想よくふるまうことを求められる。どのように行動するのも自由とはいえ、最終的な価格決定権も、アカウントの停止の判断もすべて会社側に握られているのだから、単純な個人事業主といえないことは(コンビニオーナー等と同じく)明らかだ。
こうしたアルゴリズムの上司によって施行されているUberのルールは、彼らに開かれているはずの起業家精神にあふれた意思決定の機会をとてつもなく制限してしまっているのだ。ドライバーは自由という公約と、それを蝕むアルゴリズム的マネジメントという現実との間の緊張関係に気づいている。実際、この緊張関係が、ドライバーは個人事業主として分類されるべきではないという法的主張の根拠となっているのだ。
Uberドライバーを個人事業主として分類するのはおかしいと集団訴訟も起きているのだが、Uber側の返答も過激で、彼らは「Uberのドライバーは、ソフトウェアの顧客である」「顧客に対してソフトウェアのライセンスを与え、その手数料を受け取っている」だけだと返答している。その主張がまかりとおれば、どれほどドライバーが増えようがこの会社には労働者はおらず、労働者問題も抱えていないことになる。
おわりに
と、Uberの事例を通して、いかにアルゴリズム上司が労働者を支配的にコントロールしているのか──といったことが描き出されていく。アルゴリズムによる高速マッチング、適正な価格への調整などは、決して悪いことばかりではない。しかし、それとどう付き合っていくべきなのかは、その正体を知った上で、個々人が判断するしかないことだろう(そもそも、現時点ではまだそこんにすら到達できていないのだけれども)。「こういう世界・会社があるのだ」と知っておくためにも重要な一冊だ。