これはとても面白かった。再生可能エネルギーがうんたら〜といえば、「すぐに再生可能エネルギーに切り替えろボケ」みたいなクズみたいな意見しか読んだことなかったけど「40〜50年かけて現在のエネルギーを置き換えていき、この行動を自発的に持続していける仕組みを考えよう」っていう姿勢・理想に共感したんだ。
ここで簡単に各種エネルギー源のおさらい、というか再勉強。再生可能エネルギーとは太陽光発電や風力発電、それから水力発電のような日々太陽からふりそそぐエネルギーを変換して半永久的に更新可能であるもののことをいう。
対して化石燃料や石炭などの起原は数百万年から数億年の年月をかけて蓄積された植物やプランクトンの死骸が元であり、長い年月をかけて変化したものである。どの程度根拠のある話なのかわからないが、石油を創りだすためには数百万年ほどかかるそうだ。
原子力はといえば燃料の放射性ウランは地球由来のもので上に30年ぐらいで尽きてしまう。もっとも原子炉の中で核分裂反応させることによってプルトニウムを生成しこいつをちょちょいと増殖炉で利用可能にしてやれば、かなり寿命の長いエネルギー源になる。
太陽エネルギーを今まで蓄え熟成されてきた化石燃料を使うのは、かなり効率が良い。エネルギー源の本質的価値を決める要素で重要なのはエネルギーの産出・投入比率だ。石油は1バレル投入することで100バレルを得ることができるので比率値は100となる(簡単だが)。石油の生産コストは他と比べて圧倒的に安い。
ただ当然一度底をついたらもう手に入れることはできない。尽きないのではないか、といった議論もあるようだけど、そもそもの発生起原からして尽きないなんてことがあるんだろうか。疑問だ。どっちにしろ今は環境汚染とのかねあいで長期的に使用するには困難がある。
原子力は実際優れたエネルギー源だが、今日の福島をみるになかなか危ないやつだ。ヘタしたら土地に住めなくなっちゃうよ、怖い怖い。でも効率はよい。100万キロワットの発電所を一日稼働するのに原子力なら1キログラムの燃料で済んでしまう。化石エネルギーを使おうと思ったらこの100万倍、1000トンの燃料が必要だ。トラック200台分。
しかも原子力は二酸化炭素をあんまり出さないんだよね。トラックもこないし(笑) 放射性物質さえなけりゃあ夢のエネルギーと云われた理由もわかるというもの。そもそも僕は今回の事故で、原発の運営に関してはかなり危機意識と問題点の整理が徹底的かつ大々的に行われて、原発を運営していくのは全然ありなんじゃないかと思っている。
一方再生可能エネルギーは二酸化炭素は出さないけど、効率が異常に悪くて設備投資に金がかかる。ひとつ例をあげれば先ほど例に出した100万キロワットを発電するには太陽光発電で山手線の内側の面積、風力発電ならその3倍の面積が必要で、げらげらげらげら、とても無理!(笑)と思ってしまう。
だからこそ本書みたいな再生可能エネルギーに活路を見出そうとする人は理想ばかり先行したただの夢想家であると思い込んでいた。でも読んでみたらその理想の高さと遠い先をみた計画に驚いた。40〜50年かけて、日本のエネルギーを石油や原子力から完全に解放して再生可能エネルギーで置き換えようと言っているのだ。
その計画(概略)はこうだ。今後、当面は原子力発電分(日本の電力の約30%)を化石エネルギーで置き換える。その間再生エネルギーを最大スピードで取り入れ、化石エネルギー分を再生可能エネルギーに置き換え、2020年までに発電の半分をこれで補う。この為に必要な再生可能エネルギーへの投資金は年間5兆円だ。
このスピードと投資で再生可能エネルギーを導入し続けると、発電による二酸化炭素の排出量を2025年から2030年の間でほぼゼロにすることが可能らしい。こうして電力をほぼ再生可能エネルギーで賄えるようになれば、次にいよいよ電気以外の、化石エネルギーを使う分野を再生可能エネルギーで賄うことになる。
これが40〜50年後には、エネルギーのすべてを再生可能エネルギーに置き換え、エネルギーをすべて国産で自給できることになる。なぜそこまでしなければいけないのか、する意味があるのかという疑問がすぐに湧いてくるが、メリットがなかなか興味深い。現在年間の化石エネルギー輸入代金の20〜25兆円が浮くことになるのだ。
総エネルギーの5分の1以上を再生可能エネルギーで賄えるようになれば、輸入代金の節約した分が投資したぶんを上回ることを意味している。
化石エネルギーもウランもいずれ尽きてい源だ。尽きていくということは競争が苛烈になっていくことを意味する。その点再生可能エネルギーの利点といえば、最初は高コストとはいえ、一度大々的に設備投資を行なってしまえば後は持続的な改修、保守、あるいはヴァージョンアップといった継続的運用費だけで維持していくことができる点にある。
現在はまだ利用効率が低すぎ、変換効率や設備投資もまだまだだが、持続的に有効なシステムがいくつも立ち上がってきている。世界的な感心も集まりつつあり、投資額はこの6年で10倍、EUは2020年までに再生可能エネルギーの比率を20%にするという目標をあげている。「いま・すぐ」には到底ムリでも、持続的な発展と継続的な投資を課せば50年、100年後には未来を書き換えることが出来ているかもしれない。
本書に出てくる数値はすべて理想的なもので、実際に出来るのかなあと考えれば日本の現状を考えても、とても無理そうだなあと思ってしまう。化石燃料で置き換えるって言っても、今は天然ガスも伸びてきているし前述の理由で僕は全然原子力を使うのもありだと思っている。だいたいすべてを再生可能エネルギーでっていうけど航空機やヘリを電気で動かせるのか?
でも100年200年で考えた時に、理想ってのは大事なんだよ。理想がなければ信念がなく、信念がないものは計画がなく、計画がないものは実行がなく、実行なきものは成果がなく、成果ないものにこうふくはなく、ゆえに幸福を求める者は夢がないんだって渋沢栄一はいった。かっちょいい言葉だ。理想を持つところから始めよう。
日本は再生可能エネルギー大国になりうるか (ディスカヴァーサイエンス) (DISCOVER SCIENCE)
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