基本読書

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誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論:評判がいいだけある。

なんとなくデザインの本をいくつか読んでみようかなと思い立ち、最初に読んだのがこの本でした。たぶん一番有名な本だけあって、デザインについて本質的かつ有益な一冊。「もうこれ読んだら他の本読まなくてもええやん」と思ってデザインの本をいくつか読むのをやめてしまうぐらいに(おい)。最初はユーザインタフェース的な部分のデザインを勉強しようかなと思っていて、そのスタートとして読み始めたんですけどねえ。

本書ではデザインの本質的な部分。つまりデザインを考えることがなぜ必要なのか、デザインが悪いと何が起こるのか(それは日常的に起こっている)、良いデザインとは何なのか、良いデザインの原則とは何か、といったことに対して主に認知科学の分野……脳を分析対象として考えていきます。脳をテーマにしたものは本質的にならざるをえません。

なぜデザインを考えることが必要なのか
なぜデザインを考えることが必要なのでしょうか。それはデザインが悪いものを使わされることによって、本来看過されてはいけない問題の本質を見過ごす可能性があるからだと説明されます。飛行機が墜落すれば「パイロットのエラーが原因です」と言われ、原子力発電所に重大な問題が起これば「原因は人災」として騒がれて終わりになってしまう。しかしこの種の事故をよく分析してみると、デザインの問題が見えてくる。

たとえば本書で挙げられている具体例のひとつとして、ボタンで二つの機能を果たすことができるプロジェクターの話があります。講義をしている最中、学生にスライド係を任せた著者が、スライドを次によろしくと言った後に、プロジェクターは盛大に後退しスライドをばら撒いた。このプロジェクターは、短く押すとトレイが前進し、長く押すと後退するのだったのです。もちろん1つのボタンでいくつも機能がついているのはいいことだけど、それを使う側はどうやってしったらいいのだろうか? 無理に決まっている。

それでは逆に良いデザインとはなんでしょうか? 容易に解釈したり、理解したりすることができるものがこれに当たります。たとえばはさみ。穴はあきらかに何かを差し込むためのもので、論理的に考えればそこに入るのは指しか無い。その穴の大きさは、入る指を限定するので迷う必要もありません。指が入ってしまえば、その物が何をするためのものなのかは誰にとっても一目瞭然です。

デザインによって行為を誘導し、制約することによって人間のエラーも減らせるのです。たとえば昨日ひょっとしたことで子供用のクレパスのおもちゃをみました。子どもでも手にとりやすいように太さが調節されていて、食べても大丈夫な材料で作られています。先端にかけて穴が開いていて、重ねて遊ぶこともできます。この穴が開いているというところが重要で、穴が開いていることで、喉につまらせてしまっても息ができるようになっているんですね。

基本的に機械や物を操作する時、人は罪悪感をもって自分のエラーをかくしたり、自分の不注意を責めたりするそうですが、本当に被告席につくべきなのは、いつも間違いなくデザインの方なのです。間違った設定をさせやすかったり、計器を読み間違えさせたり。そして、危険であると報告したことが間違いだったときに、それを罰してしまうような社会構造のデザインなのです。

社会構造までデザインの範疇に含めることが出来るのって面白いですね。デザインっていうのは物の考え方のひとつなのでしょう。だから何にでも適用することが出来る。

良いデザインの原則
良いデザインにはいくつかの守るべきシンプルなルールがあります。本書ではそれぞれちゃんと概念モデルや、認知科学的にみた裏付けをしっかりとといた上でこの原則を出しているわけですが、そこまで書いているわけにはいかないのでぱぱっとまとめてしまいます。

・可視性 目でみることによって、ユーザは装置の状態とそこでどんな行為をとりうるかをしることができる。
・よい概念モデル デザイナーは、ユーザにとってのよい概念モデルを提供すること。そのモデルは、操作とその結果の表現に整合性があり、一貫的かつ整合的なシステムイメージを生むものでなくてはならない。
・よい対応づけ 行為と結果、操作とその効果、システムの状態と目に見えるものの間の対応関係を確定することができること。
・フィードバック ユーザは行為の結果に関する完全なフィードバックを常に受け取る事ができる。

以上が満たせているものは、良いデザインといえるでしょう。はさみをまた例にあげて一個一個確認してみると、可視性⇒明らかに指を入れるであろう穴が開いていることによって、そこに指を入れるということがわかる。よい概念モデル⇒はさみにできることは指を動かすことだけで、それはそのまま目的とする行動に当てはまっている。

対応付け⇒はさみじゃちょっと説明できないので車のハンドルにしましょう。車のハンドルは右にきれば右に回るし、左に回せば左に回ります。何を当たり前のこといってんだこの馬鹿と思うかもしれませんが、これを最初に考えた人ってすごいデザイナだなと思いません? しかも自分がとった行動の結果はすぐに見え、フィードバックとして返ってきます⇒フィードバックとまあこんなかんじです。デザイン。

「車のハンドルとか、はさみとかはいいかもしんないけど、日常にはあまり生かせないじゃん」とも思いますが、先に書いたように「デザインとは考え方」であって、その気になれば社会構造から組織、人間関係までデザインの観点から考えることができます。エラーを起こさず、誰でもみただけで、あるいは少し触れただけで理解できるような、そんな「何か」をどうせ作るのだったら作っていきたいものです。その第一歩として。

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)