ついに七巻かー。アニメも超おもしろいですし、僕の中で人類は衰退しました熱が盛り上がりまくってます。七巻もちょうおもしろかったのだ。田中ロミオは天才なのだ。あ、ちなみに表紙がとてもいいですね。なんか絵が変わっているけど、僕はこっちの絵も好きだな。表情が豊かだし、ちょっと大人っぽくなった今の方が作品の雰囲気にあってるかも。小道具が表紙にいっぱいうつってるのも好きです。
収録は【妖精さんたちの、ちいさながっこう】と【人類流の、さえたやりかた】の二作。どちらも130頁ぐらいの中編になっています。
前者はクスノキの里に学校を! という要請から試験的に3人の子どもの教師役をするものの、問題児すぎて学校教育の難しさ、どこまで生徒の家庭の事情に無み込むのかというジレンマ。それから現代の馬鹿な親や世間的な要請を皮肉った内容で、大津市のイジメ問題が未だに収まらず紛糾している今では非常にタイムリーなお話です。当然教師役は「わたし」です。
近年【AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜 】や【灼熱の小早川さん】の二作で共に学校を舞台にスクールカーストやなんかもやもやした部分(適当だな)を書いた延長線上にあるのかしらんという気もしますね。しかしこのあたりの問題は非常に難しいなあ、と読んでいてあらためて思いました。
たとえば子供たちの家庭で親が呑んだくれてたり、親が子どもにまったく構わなかったりしたからといって、先生がどこまで介入すべきなのか? というのは難しいところがあります。本作ではPTAから受け取った教育要綱に、児童間に悪感情があることを教師は認めてはいけなく、自動とは清らかなものであり天使のような存在であっていじめに見える行為にも害意はないはずだと書かれています。
もちろんこれはフィクションで基本的にはあははひどいねーでも現実を反映しているよねーというような風刺的ギャグですけど、明らかにいじめがあった場合でも「いじめとは認識していなかった」などと口を濁して答えるほにゃららな事象が現実に起きていることをみるに笑えねー部分がありますね。教師もしょせん上からの命令に唯々諾々としたがっているだけで対処には限界があるとも言えます。
本作ではモンスターペアレント問題には踏み込まずに、そんな状況下で子どもたちにどんな教育を行ったらいいのか、っていうところを書いています。今までの中でも重い部類の話ですけど、誠実な書き方でとても良かった。心が暖まります。
後者【人類流の、さえたやりかた】は【たったひとつの冴えたやりかた】のタイトル的なパロディということもあって非常にSFチックな話です。人工知能の話。意外と「わたし」がプログラミングや情報技術に強くて、超高等言語(普通に話すような言葉でプログラミングできる。)としてUtori(抽象度の許容範囲が極端に広く、どのように書いてもバグが出にくい)とかBubble(ソースコードから読み取れる仕様と近似するプログラムを勝手にどこかから拝借してくる)みたいな、ハイセンスでナンセンスな言語ギャグが笑える。
いやーほんとに、田中ロミオせんせーは、SFチックなこういう話書くのうまいよね。アルジャーノンに花束を盛大にぱろった話もちょーおもしろかったけど、これもまた絶句するぐらいおもしろかったよ。タイトルとのつながりはいまいち不明。たったひとつの冴えたやりかたは異種族の交流物で、人工知能とはちょっとズレる。人類流の、というところも、旧人類たる人間なのか、新人類たる妖精さんなのか、微妙にわからない。
ただ人工知能という新たに生まれた異種族との交流を、人類流(旧人類と新人類共同で)【たったひとつの冴えたやりかた】とはまた別の方向性で探ったのが本作なのかもしれない。あまり書くとネタバレになってしまうのでやめておくが、僕はそんなふうに読んだ。とても優しくて、ブラックで、でも笑って心にどす黒いものが湧いてくるだけじゃない。
ギャグからシリアス、SFからスクールカースト、人の闇、人情。これだけ多様な作風を有しながら、どれも高い水準で保っているこの二作を読んで、あらためて田中ロミオはやはり天才なのだと思った。
- 作者: 田中ロミオ,戸部淑
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/07/18
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