基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

満天の星と青い空

漫画家の西森博之さんの初小説。なかなかおもしろかった。宇宙から飛来した隕石に被着した、謎の最近によって地球上の金属はほぼ全滅! 文明は崩壊! きたる世紀末! 我らが主人公は感情をほとんど持たない空虚な人間中澤! 軽薄で楽しいことを追求するがちょっと熱いところもある横川! 超お人好しで世紀末でも人道を遵守しようとする善人水上! を中心として繰り広げる人情ドラマである。

文章は下手くそで今誰の心中を語っているのかよくわからないところもあるが、ドラマはおもしろかった。それに西森漫画を読み続けてきた僕からすれば、文字を読んでいるだけでもコマが思い浮かんで漫画みたいになるのでお得である。お茶にごすを書く前に漫画作品として連載しようとして書いていたということで、主要人物のモチーフはほとんど一緒である。

一行は修学旅行でいった京都で細菌被害にあってしまう。交通網は麻痺し文明は消滅する。当然帰れない。パニック。疑心暗鬼。どうすることもできなく、各自自分の家を目指す──。世界がどうなっているとか、全体的な話は特になく、くらーい世界観で語られる少年少女たちの葛藤がテーマ。中澤は感情をあらわにする人達をめにしていいなと思い、自分にはまったく理解できない考え方をする善人水上に惹かれる。

僕は読んでいる間ずっと感情とかくだらない人付き合いにほだされず、合理的な考え方で物事を進めていこうとする中澤のキャラクターが良いなあと思っていた。彼が水上に惹かれて、彼の考え方が否定されて「道徳の授業最高ー!」みたいな薄ら寒い話になるのではと怖かったが、ちゃんと着地してよかった。相変わらずなんというか、特にメッセージ性が感じられないが、爽快な作風だ。ちょっと漫画で読みたかったなっていう気もする。

それにしても文明が崩壊した世界で〜みたいな設定であまりメッセージ性を感じないのもすごい話だ。『満天の星と青い空』というタイトルからもわかるように文明がなくなって空が綺麗だっていう話ではあるのだけど、それ以上しつこく主張してくることもない。気持ちが良い話だった。ファンなら、楽しく読めるだろう。

ファン以外だと……どうかな? 文明が崩壊した後のディストピアSFとしては読める。欲望丸出しになり、暴力に支配された野蛮人との戦いなども面白いが、そういうところはやっぱり根がギャグ漫画家というか「笑えはするけど、切迫感を感じないから読んでいてもひきつけられない」という感想は持った。

満天の星と青い空

満天の星と青い空