基本読書

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日本が世界一「貧しい」国である件について

谷本真由美さんによる『ノマド社畜』に続き、早くも二冊目の著書。ざくざくとダメなものをダメ、良いものを良いとわけていくその言葉の調子は読んでいると心地良い。谷本真由美さんの経歴はけっこうすごくてSyracuse Universityにて情報管理学と国際関係論の修士を取得、ソフトバンク(だったかな)に勤務し国連勤務になりその後なんやかんやあって現在ロンドンの企業で勤めている。

日本の文化と、世界の文化を比較検討していく中で日本が「貧しい」国であることを明かしていくような内容になっている。まあ「貧しい」といっても、金銭的な意味での貧しさはあまり感じられないだろう。というか、日本はかなり豊かな国ではある。総中流といわれた時代も今は昔といったところだが、それでも他国と比べれば平均としての安定っぷりは尊敬されてしかるべき点であると思う。

だが幸福度ランキングでは先進国の中でもかなり低いし、自殺者は減ったとはいえまだまだおかしな数だ。この前もうちのすぐ隣の線路で人が死んだよ。うぐぐ。そういう日本の状況を指摘しながらイギリスでは電車が遅れても誰も文句なんかいわないとか、仕事は自分の人生を充実させるためにあるのであって、仕事のために人生があるのではないという価値観が日本以外の国では当たり前だということをここから述べていくわけです。

そのあたりのことはしょうじきどうでもいい部分だと思う。日本の仕事環境がどんなにおかしいのかという現状は日本で働いている人間からすれば大前提のことで、今さら日本人に向かって言ってもしょうがない。サービス残業が多発し、他の人間が帰らないから自分も帰り辛いとか、他人の尻拭いをさせられて残業とか、それ以前に残業が当たり前とか、頭が完全に狂ってるとしか思えない。

仕事は自分の生活を充実させるためにあるのであって、仕事のために生活があるわけではない。そんなことは、今更指摘されるようなことではない。

そして、実をいえば現場は段々とよくなっているように見える。大企業から、特に労働時間については規制が厳しくなり無茶な残業は、減りつつあるというのが一個人としての実感である。谷本真由美さんはそうした日本の組織では万事が万事理不尽がまかりとおりサービス残業ばかりで年中無休で働いている人間ばかりであるかのような言い方を常にされているのだが、ぴんきりでありましょうとしかいえない(たとえば僕は毎日定時で帰ってるし)。

現時点では日本で働いていない方なので、現実としての日本を把握できておらず、ざっくりとまとめすぎだと思う。実際には日本型組織と谷本さんがいうような日本外標準の組織についてはもっと厳密に利点と欠点、そしてその発生原因はなぜなのかを仔細分析していくべきだろう。

たとえばイギリス型の組織では基本的に個々人には仕事のノルマが与えられ、それは同僚にはなんら関係のないものだ。自分がダメだったら上の人間がダメージをくらい、最終的にはユーザがダメージを食らい、ついでに自分もボーナスや職を失うかもしれない。「いくらでも代りの職がある」状況ならへっちゃらだが「代りの職がない」状況だと必死に働かざるをえない。

そしてどこにでも移っていくことができる能力のある人間には高い賃金を出して引き止める。非常に効率的なように思える。ただし当然弱点もあって、人件費は高騰するし働く側は(特に他に行き場がない人間だと)、自分一人でつらい思いをすることになるだろう。

でもそのかわりどれだけ休もうが誰もなにもいわないし(だって同僚間に仕事上の利害関係はないから。休もうが使えなかろうが関係ない)定時に帰ろうがなにも言わないだろう。一方日本型組織は助け合いを前提とした相互監視組織である。「こいつを助けてやるから、いつか自分も助けてもらおう」という前提の中で日々の業務がまわっていく。

そうすると良いのは全体が非常に安定することである。誰かが病気になっても、あるいは誰かが極端に使えなくても、他の誰かがそこをリカバーする。結果的に日本のサービス業とか、システムは(今はそもそもつくるのに失敗しがちだが……)非常に高い安定性を保っているといっていいだろう。しかしその分できる人間にとっては負担が大きく、わざとサボろうとする人間には非常に厳しい。

そんな相互監視、相互扶助が前提となっている状況では「自分の仕事終わったんでかえりま〜す」などという態度が歓迎されないのは明らかだろう。こうした組織ではできない人間は村八分にされて辞めていくか、もしくは村八分にされたくなくてがんばる(陰湿だなあ)。そして出来る・できないの評価軸の他に「人を助ける・助けない」という評価軸が存在しているのである。

もちろん本書で問題にされているような「過労死するほどの労働」などなどはあきらかにおかしい。改善されなければいけないところだ。しかしそうした問題にたいしてそもそも「なぜ過労死するほどの労働を日本人はしているの? そこにはどんな理由があるの?」という部分への分析が本書は大雑把かつおざなりなのである。

だからそれにたいして「人生を充実させるために仕事があるのであって、その逆ではない」などと言葉で言ったところで、ほぼ無意味であると思う(まったく意味がないわけではないと思うが)。誰もがそれを認識しつつ変わらないのであるとしたらそこにはそれなりに理由がある。それはたとえば今からそんな実力主義に舵を切ったら、勤続20年の使えないおじさん、おばさんたちはどうなるんだろう? というような疑問を持てばわかる。続いているシステムにはそれなりに理由がある(事が多い。もっとも最初に書いたように変わりつつある。)

もっとも本書は別に日本からそうした労働習慣をなくそうというわけではなく、まず個々人が何をするべきなのか、アジテートする本なので、あまり関係がないかもしれない。結局のところ将来的に変わっていくのは当然で、そしてそうなった時に一番ピンチになるのは「常識を変えていかなければいけない世代」の人間なのだし、最終的には個人の努力、意識とかいったものに帰結する。

本書ではこれからの日本に必要なものとして3つあげている。1.働き方を変える。2.自分のこととして考え行動する。3.多様性を受け入れる。これはもっともなことだ。それにいろいろ書いたけど今の20代30代はもうとっくに海外の情報から、自分たちがいかに面倒くさい状況下にいるのかを知っているし、本書で述べられているような、日本外価値観を自分の中に持っている。ただそれを隠しているだけなのである。

なにも言わなくても、そうした年代の人達が主流になっていく10年20年先には日本の組織も様変わりしているはずだと思う。ただうまくいえないのだが、今の日本の仕事環境はそれなりに理由があってここに落ち着いているわけであって、ただただそれを欧米をみならえというのでは無意味だということだ。

たとえば欧米の個人主義には神と直接個人個人が繋がっているという下地があるからだという文化論もある。それを丸呑みで信じるわけにはいかないが、日本人のような他人は他人、自分は自分という個人主義が育っていない人たちの間で仕事システムを輸入してもうまくいかない可能性が高いだろう。「なぜ」いまのような状況になっているのか、そうしたところから分析して、自然に分岐していけるのが一番良いと思うのだ。

日本が世界一「貧しい」国である件について

日本が世界一「貧しい」国である件について