基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

(株)貧困大国アメリカ (岩波新書) by 堤未果

アメリカの問題一気見シリーズ。どこの国を見渡しても問題がない国なんてないわけだけど、アメリカの問題もなかなか気合が入っていてみていると大変で笑ってしまう。本書の主要なテーマはタイトルに㈱と入っていることから連想されるように、まるで株式会社のように金で政治家が踊らされるようになってしまったということ。巨大化した多国籍企業がその資金力をいかして様々な手段で政治的な立場、権力をにぎって自分たちの都合の良いように政策をねじ曲げていく。

取り締まろうにも誰が取り締まるねん、取り締まる側、取り締まることを決定する側が既にそうした大企業に取り込まれているのに、と考えていくとあまりにもぴったりと今の状況にハマりこんでしまっているためになかなか解決策が思い浮かばない。大衆はだいたいマスメディアを通してしか個別の問題を大規模には知り得ない。ネットの署名も奇跡的にうまくいったときだってたかだか数万オーダー。え、そんなんどうすりゃいいの、みたいな。

たとえばAmerican Legislative Exchange Counciという組織がある。州の議会に提出される前の草案を議員が民間企業や基金と一緒に検討するためのNPO組織だそうだが、そこに集う企業側の面々はけっこうなお名前が揃っている。まあようは、そこで、企業側に有利な草案が作成され、州議会に提出される。献金はいっぱいあるし議員はそこで出てきたものをほぼそのまま自分の州に持ち帰って出すわで、アメリカ全土に効果は出ないものの、数撃ちゃ当たる、何度もチャンスがあるということで企業側もウマイ。

学校の選択を自由化して、その為に1万ドルの補助金を出そう! みたいな法案が提出されて「ふむふむ」と検討しているかと思えばそれは実は民間のチャータースクールにとってのチャンスでありようは企業側の都合が働いている。そんなこといったら世の中全部利害関係で見ることも出来るんだからなにもできなくなるじゃねえか、と思わないでもない。

しかし問題はそうしたことを国民がよく知らないところにある。マスコミだって政治との癒着が激しくなればそうした情報は降りてこなくなる。問題だって「◯◯が悪の企業である」みたいなわかりやすい展開にはなかなかならない。こういって物事の一つ一つに裏があるかもしれないと考えて、ことがどんどん複雑になっていくと一般人からしてみれば「もう、よくわからないし、把握しきれんよ」となることではなかろうか。

上記のような金に食い荒らされた政治状況が食に農業の崩壊、遺伝子組み換え食品から財政建て直しのためにガシガシ経済的観点から不要と判断された公共サービスを切られる州など(警察、消防まで外注してしまう。)さまざまで、大変ですよねえ、といったところ。

やはり本書の結論としては、そうした経済的な勝者たちがすべてを運用する国家ではなくその他99%の人間が自分たちにできることをすることで改革を行うのだとするものになる。抽象的に言えばエピローグの締めで引用されているアノニマスの一人の台詞のような感じになるだろう。

アノニマスは顔がないと思われているけれど、俺たちは羊じゃない。「1%」の価値観のなかで意思を持たない奴隷として生きる気はまったくないよ。あきらめて流れに身をまかせたら負けだ。まず自分の意思で生き方を選ぶと決めなくちゃ。連中は国境を超えて団結してるけど、ならばこっちもITという武器を使って、どんどん連携すればいい。教えてやろうぜ。グローバリゼーションは彼らだけのものじゃないってことを」

アノニマスの一人から聞いたという体になっているが、ほんとにこんなこと言うのか?? 一息で言えるわけないので会話の中で出てきたことを再構成しているんだからそれにしても綺麗すぎて疑問だ。なんかカッコつけ過ぎじゃないか。とケチをつけてみたりする。※そもそも僕は著者である堤未果さんの本はいつも結論ありきで情報が集められて伝聞情報が大半を占められていると感じているので、元々不信感を持って読んでいる人間であることは留意されたし。精確な出典が記載されているもの以外(つまり伝聞形式のもの)は話3分の1程度にしか信じてない。

もちろん個々の抵抗が重要なのは事実だと思うし、それでひっくり返った事例も複数本書で紹介されている。でもずっと違和感があるのは「それをどうやって局所的な勝利から、全体的な構造の変換へと繋げるのか」というのがみえないことだ。「99%」と本書で称される人たちだって別に一枚岩なわけではない。みんなバラバラだ。そんな大雑把なまとめられ方をしても、なんか語感がいいね以外の感想も出てこない。訴えたいことはもちろん、わかるけどさ。でもそれ、耳障りがいいだけだよね。