基本読書

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Privacy is dead『Dragnet Nation』 by JuliaAngwin

日本だとあまり話題になることもないが、privacyの侵害が安全と比べた時にどの程度まで許されるべきものなのかという議論が米国では活発だ。

GoogleのサービスであるGmailはメールの中身を読み取って内容に合わせた広告を出してくるし、検索履歴から滞在時間、クリック率まで全て追跡されている。会員登録は日常的にあらゆるサイトで行われ住所や名前、年齢といった個人情報は他所の企業へ流れていく。企業だけならまだしも国家ぐるみで形態の通話記録やインターネット情報を監視していることまで明らかになってきた。

議論が活発なのは何も、スノーデン氏の告発により国家がインターネットや電話回線の情報収集活動などを積極的に行っていたことが公になったから──というわけでもない(もちろんその一件以来議論は加速しているのだが)。たとえば9.11に代表されるテロとの戦いからセキュリティに関していきすぎだという議論が続いていた。それ以前の問題としてそもそも人は状況をコントロールしたい生き物であるといえる。親が子供の安全を願って子供に様々な対策を講じるように。

本書『Dragnet Nation』はそうした米国のPrivacyを侵略する監視網の各種状況を見渡していきながら、我々はいかにしてそうした状況に対抗していくのかといった「対策の一作」になっている。短くまとまっているし(本文約230頁)すっきりとしたいい本だ。具体例が多いのには辟易するけれども。こうした情報は日本語だとあまりない上に、洋書の方が切迫感があるので、好んで読むことになる。テーマが一部重なっているぐらいだが⇒Who Owns the Future? by Jaron Lanier - 基本読書 とかもオススメ。

何しろ日本ではIT系ジャーナリストとして認知されているはずの佐々木俊尚さんが、Googleが主導するような「トラッキング」情報を提供する代わりに無料でサービスで使用できていることをさして「共犯」関係であるなどとふざけたことを書く有様なのだから。*1、自分でまったく知らないまま自分の行動履歴、個人情報を好き勝手に使用されているような今の状況を肯定するのだとしたらただの「売春」でしかない。

「共犯」などというのは、お互いがお互いのことをある程度知っている状況で使う言葉だろう。少なくとも姿が見えない相手に対して使う言葉ではない。本書ではPrivacyについての現状を、公害の状況に似ていると書いている。ようは、最初は誰もが好き勝手に環境を汚染し続けているが次第にその深刻な危機に気がついていく、「見えない被害」であるがが故に、好き勝手にPrivacyが汚染され続けている状況が今なのだ。

ちょっとだけ、未訳の本なので著者情報についても触れておこう。著者のJulia Angwinは2003年から2013年までThe Wall Street Journalのレポーターをやっていた女性。Privacy調査で2011年のピューリッツァー賞Finalistになり、2010年のGerald Loeb Awardの受賞者でもあるというもとよりその道の専門家であった人のようだ。

本書の価値は現状いかにして我々の情報が抜かれているのかといった状況の把握を別にすれば「個人がいかにしてそこに対して対策を打てるか」に焦点をあてたところにある。対策の話の前にざっと現状の話をしておくと──PRIZMの暴露によって電話はすべて監視下にあることが判明。また私企業は自身らに打ち込まれた登録情報を好きなように売りさばく。著者の調べたところではあるデートマッチングサービスでは個人情報に加えて性癖や薬物の常習癖まで含めて売りさばくのだから大したものだ。

もちろん──双方が同意の上であれば問題ないのだろう。しかしこの双方の同意というのもまた難しい考え方だ。たとえばGoogleはメールの中身を読み取っていますよ、と公になっている今でも(システムが読み込んでいるだけで人間は見ていないと発表しているが……)ほとんどの人がGmailを使っている。だったら「共犯」関係なの? といえば、そうではないだろう。

普段直接的な害を受けないので、煙草の害のように即時何かが変わる、といったものではないため、ほとんどの場合特に意識にのぼるわけでもなく見過ごされているだけだ。Privacyについては殆どの場合何の実害もないのかもしれないが──、個人的には煙草のパッケージのようにトップにでかでかと、どのような情報を収拾しているか載せたほうがいいんじゃないだろうかと思っている。

ただそうした状況でもできることはある、というのが本書の主張。たとえば名前や住所を入れるところに、わざわざ本当の情報を載せる必要もない。坂本太郎さんなんて架空の人物を創りあげて、彼に防波堤となってもらえばいい。他には、携帯を使ったやり取りではSilent Circleと呼ばれる情報を暗号化できるサービスを使うことだってできる。プリペイド携帯を使えば電話会社に重要な個人情報を軒並み渡すこともさけられる。Passwordは単純な物をさけてランダムな配列にして別途1Passwordのようなソフトで管理したり──。

もちろんどれも完璧とは言いがたい。住所なんて人との関係を完全に断つことが不可能な以上、漏れるところからは漏れる。Silent Circle内のSilent Mailというサービスは、国からの要請に従わなければいけない可能性があるとして、セキュリティの安全性をうたった会社として当然の対応ともいえるがサービスを突如終了させてしまった。情報を渡すぐらいならやめてやらあ、ということだろうが、まあそんな状況なわけだ。

Privacy is dead もう諦めるしか無いのか……といえば、個人よりも組織を変えていける可能性もある。営利企業ゆえに、企業の態度はサービスを選ぶ側の意識次第で変わっていくものだ。実際今も米国ではユーザの検索履歴やメール情報をいかなる意味でもプールさせない「安全性」を謳ったサイトがいくつも出てきている。ユーザがGoogleを好むよりそうした安全性を優先させるようになれば、現状はそれだけで変わる。

公害を垂れ流していた企業を「ランキング付きで発表」することで企業に対して環境配慮へのインセンティブを発揮させたように、セキュリティ面での評価指標が重要なものとして用いられるようになるのもそう遠くないように、今のPrivacyへの議論の盛り上がり方とかつての公害や煙草の状況の移り変わりを見ていると思う。煙草吸いが今のような状況にまで追い込まれると30年ほど前にどれだけの人が予測しただろうか。

ちなみに著者のサイト⇒Julia Angwinでは実際にオンライン上で自分の情報を守るためのToolの紹介やDigital Trackingについて米国の情報収集機関である「PRIZM」で誰が何をどうやってどこでやっているのかといった具体的な情報がまとめられていたりする。本の方向性からしてしょうがないが、「個人がいかにして追跡を逃れるか」に終始していて「Privacyを損なわない為の合法的なルール作り」についての分析は浅い本だが、それはまた別の機会にご紹介するとしよう。

Dragnet Nation: A Quest for Privacy, Security, and Freedom in a World of Relentless Surveillance

Dragnet Nation: A Quest for Privacy, Security, and Freedom in a World of Relentless Surveillance