情報はフリーになりたがると『フリー』で提唱したのはクリス・アンダーソンだが、あまりまともな内容だとは思えない。正しくは「無断コピーが当たり前になっている状況下で人はそれを金を払って手に入れることに興味を示さない」であって情報がフリーになりたがるなんていうのは、違法ダウンロード大繁盛な現状を後追いで肯定する理屈をでっちあげているだけだと僕は思う。また違う形があったかもしれないのだ。現にAppleは1ドル未満で音楽を、「違法ダウンロードするよりお手軽に」ダウンロードできる環境を整えたことによって状況はぎりぎりのところで踏みとどまった。
ソシャゲやブラウザゲーのカードも、電子書籍だっていってみれば情報だが別にフリーになったりなんてしていない。みんなちゃんと金を払っている。これはまあアクセス権しか売られていないから、つまりはコピーできないのが理由だが、情報がフリーになりたがるわけではなく、コピーがまったくできないか、そこに金を払う文化さえあれば人は金を払うといういい例だろう。今はまだアクセス権を売るという形でしかコピーを阻止する仕組みは実現できていないが、模索するべき道は今述べたような方向のどこかにある。
本書『Information Wants to Be Shared』はそのタイトルからわかるように、情報は共有されたがるといったクリス・アンダーソンの言ったことのオマージュだ。情報が無料になりたがるなどというのは馬鹿げた発想だと書いたが、共有されたがるという側面は人間の欲求に根ざした部分であり、こちらの方が説得力はある。
情報は共有されたがるとはどういうことか。主に2点がこの状況に関係している。一つ目は、かつて印刷された情報は、共有するには物質をそのまま相手に渡さなければいけなかった。その為それだけ拡散の限界があった。今はどうだろうかといえば、いくらでも複製、いくらでも位置情報(URL)を共有できるので情報はあっという間に拡散していく。この10年で一変したことは数多いが、そのうちのひとつがこの「情報共有がめっちゃ簡単になった」ことに異論がある人もいないだろう。
二つ目として、あまりに情報が多すぎて、取捨選択が困難になった結果、FacebookやTwitterのような「信頼できる人が読んでいる情報」が洪水のような情報の中で「読むべきものだ」とする感覚が広まってきていることが挙げられる。たとえば今はTwitterをみれば人の注目している情報がいっぱい流れてくる。Facebookを見てもそうだ。マーク・ザッカーバーグは2008年の講演で、『来年以降、人々が情報をシェアする量は前年の二倍になっていくだろう。これはFacebookやそれに関連する情報の共有環境が今より、もっともっと使われるようになるということだ。』と言ったが、まさにその通りの状況になっているわけだ。
はてなブックマークなんかもその典型例だろう。共有したいと思った人の数が記事を読むべき理由になっていく。もちろん多すぎる情報への対処手段は「共有」だけではなく、Googleの検索アルゴリズムだったり、個人のまとめサイト管理人やキュレーターといった存在だったり、NEVERまとめやTogetterのような多数の人が参画するまとめるWebサイトだったりと他にいくつもある。しかし今ネットで「読まれよう」と思ったら「より多くの人に共有してもらう」ことが一番手っ取り早い。
「共有してもらうこと」がそのまま読んでもらえることに繋がるのだとしたら、共有シてもらいやすい環境をつくる必要がある。本書ではたとえばNew York Timesの取り組みなどが紹介されている。一ヶ月につき10記事までしか無料で読むことができず、それ以上は購読料を支払わなければいけない。しかしTwitterやFacebookなどで誰かがシェアしたものならば、一ヶ月10記事の制約を超えて読むことが出来るのだ。こうしたやり方はは積極的に情報をシェアすることへの動機になる。
もっとも手放しでおすすめできるわけでもない。出版社はコンテンツ産業であり流通産業ではないと主張してきた出版社は情報がフリーであるという前提で再検討する必要に迫られているというが、そもそも情報であるとする前提がおかしいんじゃねーのといったのはさっきの通り。またシェアをビジネスモデルに応用する方法について様々に述べているが納得できるものは少なかった(ここでいちいち例をあげて否定することもしないが)。
面白かったのは結局原理原則的なところだ。最後に一度まとめておこう。まず第一に人間は共有したがる。第二にテクノロジーは今、共有コストをほぼゼロにまで下げることができた。第三に情報量は多すぎて、信頼できる関係の人からくる情報の価値があがっている。第四に、よって共有をうまいことビジネスモデルに活かしていく必要がある、言われてみれば当たり前のことだがここにがっつり焦点を絞った議論をまだ見たことがないので、そこについてはまた別の議論に期待をかけたい。
Information Wants to Be Shared
- 作者: Joshua Gans
- 出版社/メーカー: Harvard Business Review Press
- 発売日: 2012/10/02
- メディア: Kindle版
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