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はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査 (講談社現代新書) by 松浦晋也

現在時点で打ち上がっている可能性もあったはやぶさ2だが、現状延期中で次の予定は12月3日になっている。一応予備日として12月1〜9日までおさえ、計算しているはずなのでそのどこかでは打ち上がってくれると信じたいところだ。小惑星も天体も常に動き続けており、一年ごとに再接近してくれるような都合のいい軌道はとっていないのではやぶさ2の場合、2014年の打ち上げを逃すと今回並に条件のいい打ち上げ機会は2020年以降になってしまう。ちょっとしたズレが何年もの計画遅延を引き起こすのは宇宙探査系では当たり前のことだけれども、予算獲得やその計画に時間がかかることからの意志の共有など政治面での折り合いが悪い。

本書『はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査』は「真実」とかついているので何か隠されていた謎が暴かれる的な話ではなくはやぶさ2ってなんぞやという初心者向けガイドブックになっている。初代はやぶさの功績と何が凄かったのか解説から始まって、はやぶさ2の目標はなにか、その目標はどうやって決められたのか。はやぶさ2とはやぶさ1の機体面での違いはどこにあるのか。どのような技術と技法を使って遠くの小惑星まで飛んでいくのか。はやぶさ2が何度も政治的な予算面で潰れそうになってきたか、そのぎりぎりの綱渡りの内実まで幅広く書かれていながらどれもディープなところまで踏み込んでいる。こういう本ってけっこう、時事ネタに便乗してトーシロみたいな人間が書くことも多いんだけど著者の松浦晋也さんはずっとこの関連分野を追いかけている人なのでその点でも安心だ。

宇宙の常識は我々が住んでいる地球の常識とは異なることが多いので、普通にニュースなどで断片的に話を聞いていてもよくわからないこともあるだろう。たとえば初代はやぶさは打ち上げから太陽を1周して1年後に地球のすぐそばまで戻ってくるのだが、地球の重力場を介した運動エネルギーのやりとりのた軌道をズラさなければならないというごくごく基本的なところをおさえていないとなぜわざわざ1年も無駄にして地球のそばまでまた戻ってこないといけないのか理解できないだろう。イトカワのように物凄く小さな、行って帰ってくるだけで何年もかかるところに何百億もかけていく理由も、何の知識もなければさっぱりわからないと思う。

そんなこと、別に知らなくたって日常生活では何一つ困らないわけだが……。日本という国で世界に比肩しうる宇宙探査のような分野を持ち、それを維持し続けていくことの意義を理解して、応援する人間がいなければ、いつのまにか我々は他国が宇宙へ出かけていくのをただ眺めているだけになってしまうだろう。そうなった時にこの国には宇宙分野で誇れるような技術がなにもないねえ……といっても遅い。技術はたえずブラッシュアップされ、新しいものを取り込む過程で生き返っていくものだが、現状日本の政治にはこうした分野における確固とした意志は存在しない。いったん途切れたら、そこで終わりに向かっていくということもありえる。

まあ、そんなややこしいことを考えなくても、あの「はやぶさ」の2号が、今まさに宇宙へ向けて旅立とうとしている、そしてそのはやぶさ2ってのはいったいどんなヤツなんだろう? という単純な好奇心から楽しめる一冊だ。太陽光や大気のない極寒の中ものすげー遠くまで地球と交信しながらとんでいって、いまだ人類の目が何一つ辿り着いたことのないものをみて、小惑星のサンプルをけずりとって持って帰ってこようってんだから、完全に想像の埓外だけど、それが人間のちからで出来るんだよね。すごいこっちゃでほんま。

わりとディープな技術的な面までわかりやすく解説しようとしてくれているので、その辺もうれしい。何より新書の価格帯で出ることに意義がある。

はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査 (講談社現代新書)

はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査 (講談社現代新書)