基本読書

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星のポン子と豆腐屋れい子 (アフタヌーンKC) by トニーたけざき

 一巻完結物の漫画としては非常によくまとまっているお話で絵的にも大満足な一冊。静と動、爽やかさとエグさへの運動が激しく、それでいてとても表現的に丁寧に積み上げていくので楽しい一冊。

 ジャンルとしてはSFになるのだろう。セールスウーマンを名乗る可愛らしい小動物系の異星人が子供の姉弟の前に突然やってくる。セールスウーマンというのだから物を売るのだ。現在科学を超越した技術力で「なんでも複製できる装置」と引き換えに異星人が姉弟に要求したものは「お手持ちの不要なハヒセ」であるという。

 ハヒセはそのあたりにありふれているものだと言われてすっかりその気になってしまった姉弟はその提案を受け入れてしまうが──。無知に付け込み都合の悪いことは隠して話を進めていくのは営業の常套パターンだ。かわいらしく、愛らしかった異星人は突如としてその本性を表し、一家は悲惨な事態に巻き込まれていく。貧乏だが幸せだった家庭から一転金はあるが不幸な家庭へ、そして転落した家族の恨みを晴らすため豆腐屋れい子は自分たち家族を陥れた異星人を探す復讐の行程をはじめるのであった。

 幸せな子供時代を過ごしていたはずのれい子の転落の描写は非常に丁寧かつ落差が激しくて惹きつけられる。一気に時間は5年間飛び、退廃的な生活を送るれい子が描かれるのだが、その絵的な表現が凄いのだ。さっきまで純粋無垢な少女だったれい子がゴミだらけで物が地面を埋め尽くしている真っ暗な部屋の中、ヘッドフォンをしてネットを見ながらペットボトルに自分の小便をジョボボボと流している絵のインパクトときたら!

 目つきは悪く生気も感じられないが5年を経て美少女に成長したれい子。無気力そのもので退廃的な生活をおくり、ようやく見つけた仇の異星人打倒のために金と自分の身体を売るところまで落ち込んでいっている。一方その頃異星人の方も人間の闇の部分へ落ち込んでおり──と、人間の闇へようこそツアーのように一巻の中でこれでもかとどん底を表現してみせる。

 暗い部分を表現することで出てくるのはリアリズムというよりかは、「物事はそうそううまくいかないし、うまくいったと思ってもその結果が望ましいものであることの保証なんてどこにもないんだ」という嫌な法則だ。よかれと思ってやったことがどんどん裏目に出るし、なんだかいやな方向へと現実が進み続ける。それは異星人すらも例外ではなく最終的にはお互いの妥協点の探りあい。でもだからこそ見出だせる結末もある。

 絵の表現としては退廃的な美少女が素晴らしい。死んだような目、人をなめくさった態度、もうなにもかもどうでもいいやというだらしなさが素敵だ。爽やかにはじまりエグく中継し再度爽やかな方面に振りきれていく、言葉にしてしまうと簡単なようだが、それらを説得力以上の物を持って丁寧に絵とストーリーに落としこんでいくのは並大抵のことではない。特別なところはないが、実にしっくりとくる漫画であった。