表紙に描かれた海と空、そして潔いスク水の清々しさに惹かれただけで、全く何の期待もせずに読み始めたらこれがまためっぽう面白かった。『たぶん惑星』は粟岳高弘による漫画作品(Wikipedia的な始まり方だな)。同人作品がたくさんKindleストアにあがっているが表紙のスク水率が半端ない。実際中身もやたらと肌の露出が高く、なにかと理由をつけてスク水になりほぼ全裸の腰ミノ姿になりと制服を着ている方が珍しいぐらいなのだが、単なる女子高生のお色気漫画なのかといえばそうではない。
露出がやたらと多くスク水を着てエロい恰好をする女子高生が出てくるという特徴以外を述べていくとなると、欄外にまで書き込まれていく世界設定がまずあげられるだろう。昭和64年夏に、とある惑星(行政区分上は日本国静岡県小笠市)に引っ越してきた少女が主軸となって物語は進む。明治35年に着工された東海道本線牧之原第弐式隧道の金谷川560mにて発生した原因不明の吸気現象が観測され──まあこれが恒星間ゲートであり太陽系外惑星へとつながっていてそこが本作の舞台になる。
越してきた少女も叔父の研究にともなってであり、物語開始昭和65年の時点では人が入植し住めるようになっている。太陽系外惑星らしくもちもちという謎の原生生物(知性が感じられる)がいたり、人類文明に存在しない高度な機能を持つ数々のアイテムを創りあげた建造者がいたり(ほとんど出てこない)「見る人」という謎の異星人がいたりする。その変てこな惑星でのゆるやかな生活を描いていきながら惑星の謎が明らかになったりならなかったりしていくのが主なあらすじ。
恒星間ゲートなど理屈がわからず「ただそういうものです」という設定もあるが、大気中の窒素と反応して格子構造を形成し発泡建材を生成するなどと謎に詳細な説明がされる特殊アイテムがあったり、NASA開発の無人観測機が出てきたり、電脳戦までやってのける、妙なところでリアリティを発揮してくる設定が腰ミノやスク水ばかり着ている女の子とのアンマッチさで特殊としかいいようがない雰囲気を出している。
斥力のコントロール装置など、漫画的に面白いアイテムも出てくる。たとえば2巻の表紙は斥力により重力方向が変わってしまっている図であり、こういう視点がまるきり入れ替わってしまうような絵の表現は漫画ならでは、SFだからこそできることだ。そして人類入植の歴史、この謎惑星へのトンネルが日本からのみではなく米国トンネルなどがあることや、人類の何倍も進んだテクノロジーを持った建造者の設定が開示されるところまで話が進んでいくにつれて、単に雰囲気だけ異世界っぽくつくりあげたほんわかSFものではなくなんだかもっと異質な何かだこれ、と気がつくことになる。
「たぶん惑星」の「たぶん」が実際に意味を持っていると判明する箇所などSFが的にポイントが高い。登場人物の会話だけでフォローされない部分はコマの欄外で解説が行われるが、この欄外解説があると正しくSF漫画している感が出てくるよね。某機動隊みたいに。あそこまでいくといきすぎかもしれないが。
懐かしいアイテム
また時代がなぜか昭和64年とだいぶ昔に設定されていて、人類文化圏のアイテムがみな古くてその解説もまた面白い。1970年代にはやったBCLラジオを筆頭にPC-988が主役として鎮座していたり、海のトリトン(作中ではウニのトリトン)が再放送で夏にやっているなどなど懐かしい人がみたら「うわあ懐かしい!」と声をあげてしまいそうなアイテムで溢れている。当然携帯などない。南国を思わせる不思議惑星にレトロなアイテムと装い(ほぼスク水が腰ミノ)が相まって独特すぎる世界観を表現している。
恐らく大ヒットすることはないであろう随分なニッチ狙い。何しろスク水に昭和64年にSFですからね、誰が得するんだこの組み合わせというようなマイナな狙いですが、独特な雰囲気が味わいたいのならば是非。今なら1巻がKindle版で280円、2巻が400円と二冊買っても一冊分の値段で済んでしまう。
- 作者: 粟岳高弘
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2013/09/27
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