基本読書

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社会保障亡国論 (講談社現代新書) by 鈴木亘

 鈴木亘さんの本を初めて読んだのは年金について論じていた本だったか。今回は年金含め日本の社会保障費がいかにヤバイことになっているかの解説と、それについての具体的な対策を論じている。実際社会保障費はヤバイ。消費税は上がり、後退を続ける年金に明らかにうまくいっていない少子高齢化社会への対応をみていると「なんだかやばそうだなあ」と危機感を持ってはいても、それが実際どの程度ヤバイことなのか知らない人も多いのではないか。本書はその知識の穴を埋めてくれる一冊になるだろう。

 年金からして現役世代が高齢者世代を養うシステムになっているんだから、人口比が多少ばらけただけでうまくいかなくなってしまうのは設計時から誰にだってわかる。それでもそんな制度がまかり通ってしまったのは「その時」は都合がいい制度だったからだ。社会システムを構築する時に40年先を考えられない病は未だ日本を覆っている。現状税金と保険料だけでまかない切れない部分を国債発行などの手段で補っているが、年々その額は増大するばかり。

 国自体の方針があるのならばまだみられるものだが。少子高齢化社会において今後人口減少を「人口減少食い止める方向で動くのか」「人口減に適応した社会システムにするのか」「どちらも実行するのか」といった方針すらもよくわからず毎度毎度場当たり的な反応を示しているようにしかみえない。年金も破綻しきった現実を見据えず支給年齢を遅らせたりといった対症療法的な手しか打てていない。

 社会保障費は総額でいえば年間3〜4兆円の規模で膨らんでいる。このことへの対策も方針も何も聞こえてこない。消費税増税? 焼け石に水状態であり、一言でいえば現実を見ようとしていないというのが現状だろう。明らかに何十年先を見据えたものではなく、目の前をなんとかやり過ごそうとしている対策ばかりに見える。何十年も先を考えたのならばまず打つべきなのは根本的なシステムを変更することであるが、そんな対策が打てるような身軽な状況ではなくなってしまっている。

 年ごとに増えていく社会保障費にたいして「でもその分徴収すればいいんでしょ?」と思うかもしれないが、たとえば社会保障費として今後払わなければいけない額と、これにたいして今まで行われてきた積立金(債務にあてられて、すでに貯蓄されている額)をマイナスしたもの(純債務)を計算すると約1500兆円存在するという。1500兆円の純債務を返済するためには今後保険料引き上げや増税、給付カットといった債務を減らすための試みを1500兆円分行わなければいけないことを意味している。徴収も削減も容易く行えるものでないことは一目瞭然だろう。

 この異常な額をなんとかしなければいけないのだからくらくらしてくる。国債を発行して足りない分を埋め合わせれば良い話ではあるし、実際今はそうやって対応している。しかしそれは結局未来へ借金を残すだけであり、今後は①高齢者への負担を増す。②社会保険への税投入をできるかぎり避ける。3将来世代への負担先送りを解消する という当たり前のことを当たり前にやっていく必要があるわけだが……。さっきも書いたように抜本的な解決案がとれるような状況ではないようである。

 本書で行われている提案はしかし、通すのがどれぐらい難しいのかは現場を知らないのでまったくわからないが。、割と現実的に実行可能なレベルにおさえられているのではないかと思う。負担の引き上げについて、消費税引き上げではなく相続税の課税ベースを広げるように高齢者の資産課税から財源を得る仕組みにシフト。給付のカットについては本当に必要としている低所得対策のみに重点をおいて公費(税金や借金)でまかなっている部分を削る。

 生活保護についても稼働能力層については生活保護とは別の第二のセーフティネットを用意して再生支援を行うなどの仕分けを行い……と主要な点としてはこれぐらいだろうか。生活保護も検討してみるとシステムとしてまだまだ未熟で、そもそも方針がよくわからないんだよね。稼働能力層にも生活保護を受け取らせて自立を促す仕組みにするのか、稼働能力そうには生活保護受給を認めない代わりに第二のセーフティネットを作って支援はそこですべて対処するのか。

 本書では一つ一つの点についてもっと詳細に述べられていることはいうまでもない。しかしどうやったらこうしたことが本当に実行されるようになるんだろうね。まずはちゃんと「年金は破綻しているし社会保障費は増大を続けていてこのままじゃマジヤバイんですよ」と現実を把握できる運営者たちが必要だろうが……、そんな人現れるのかなあ。ようは「そんな先のことに責任を持つリスクを取る」理由のある人がいないからだよね、今の惨状って。

社会保障亡国論 (講談社現代新書)

社会保障亡国論 (講談社現代新書)