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なぜ中国人はアフリカをめざすのか──『中国第二の大陸 アフリカ:一〇〇万の移民が築く新たな帝国』

中国第二の大陸 アフリカ:一〇〇万の移民が築く新たな帝国

中国第二の大陸 アフリカ:一〇〇万の移民が築く新たな帝国

アフリカの経済やら政治やらを取り扱った本を読んでいるとどれも中国の関与を述べる箇所がある。ようは、それぐらいアフリカの状況を語るときには中国が外せないのだが、それ単体で取り扱ったものは読んだことがなかったところに本書が出たのでさっそく読んでみた。で、本書ではもちろん中国のアフリカに対する関与について触れていくんだけれども、それ以上に注目すべきポイントとして挙げられているのが『中国が多くの自国民を実質的に輸出しているという事実』なのだ。

中国が多くの自国民を、移民や長期滞在者としてアフリカへと送り込み、アフリカはこの10年間で推計100万人ほども中国人を受け入れたという情報もある。著者もアフリカ各地を回っていて、どこに行ってもほぼ必ず中国からの移民を見かけるという。その上、中国はわずかな統計データしか出していないためにこの100万という数字がどこまで正しいのかさえわからない(もっと多い/少ないかもしれない)。

なぜそんなことが起こっているのか。中国人は何を考え、何を求めてアフリカへとやってきているのか。100万人もの移民が発生しているのは本当なのか。そうした移民を受け入れているアフリカに住む人々はどのように感じているのか、などなどを著者はアフリカ大陸各地に散らばる大小15カ国も話を聞いてまわっている。大勢の事業者や労働者の話が集められている凄い密度のドキュメンタリーだ。

なぜ中国人はアフリカをめざすのか

おもしろいのが、「なぜ中国人はアフリカをめざすのか」とはいっても著者が多くの中国人に話を聞いて見えてくるのはみんな「適当」ということ。少なくとも手堅く計画を練って万事準備を整えてアフリカへやってくる大半の人は中国の精鋭たちではない。周りの人がみんなアフリカはいいとこだよと言っていたからとか、ビジネスチャンスがあるよと中国での説明会で言われたからとか、その程度のものだ。

ただ、動機に関しては多くの共通項がみられる。代表的なのは、「食べていかなくちゃならなかったから」や「中国にいてはチャンスがないから」、ようはあまりにも人間が多すぎ、金もろくに稼げないために「まだアフリカのような新天地にいったほうがマシ」という人たちだ。場合によっては性的な産業に従事している女性がアフリカへの仕事(夜の店)を仲介され人身売買じみたステップで送り込まれたりもする。そういう人たちは特別な技能を持っているわけでもないから、夜の店で従業員として勤めたり、林業や建設や農業をやったりとさまざまな職に散らばっていく。

こうした状況には中国の戦略「走出法」の後押しもある。その名から連想されるとおりに、国営企業や地方政府にビジネスチャンスを求めて地球上をくまなく探せと呼びかけた標語で、ようは「出て行け」ということだろう。この点でアフリカがターゲットにされているのはさすがに無軌道なものではなく、国家はたしかな戦略を持ってやっているようだ。政府の後押しを受けてくる事業家らもいるわけである。

狙いとしては、自然資源の採掘を確保するというのは当然にしても、それ以上に今後自国の輸出産業を支える市場や、明確に自国の企業や労働者が利益をあげられる場所にすることへ多大な金と労力を注ぎ込んでいる。この点では、アメリカが行う投資(援助)とはスタイルが大きくことなる。アメリカは蚊帳を送ったりエイズに気をつけろと価値観や生活様式へと踏み込むが、中国は道路や学校、病院など明確にわかりやすい物を建て、我々がこれをやったんだぞと誇示してみせる。

アメリカ政府が資金を保証する大掛かりな事業であっても自国の企業を優先するようなことはあまりないのに対して、中国では中国の事業者、資材、労働者を使うことを求める。アフリカの、たとえばセネガルのような国ではこうした中国マネーを得ることで「西欧の金がなければ何もできない束縛から解き放される」という利益もある。とはいえ、その後中国が自国に最大の利益を求める状況やその悪辣な労働搾取を目の当たりにして行き詰まりも感じているのが現状といったところのようだ。

アフリカ諸国の反応

著者がインタビューをしている限りでは、中国事業に雇われているアフリカ人はあまり良い待遇を受けてはいない。ザンビアにて炭鉱労働に従事させられている人々は法定最低賃金をはるかに下回る額しか払われず、抗議活動を行うと中国人監督に散弾銃をお見舞いされる事件も起こっている。その上、大統領はそうした事件を特定の人々を糾弾することがないようにと諌めるような形で声明を出し、非常に奇妙な形での中国への配慮(恐らくは政府に中国マネーが流れ込んでいる)も存在している。

中国人はさまざまな形でアフリカに事業を起こすが、単純作業は現地のアフリカ人を激安でこき使い、監督官などの職には自国から呼び寄せた中国人を使うパターンが多い。こういう形態について著者が質問すると、「黒人はあまり働かない」し「難しいことはできない」から仕方がないのだと返答がくる。工事現場など賃金は安いし就業日は13時間労働、苦情を言おうにも中国が政府と合意した上で建設しているものも多く、言ってどうにかなる場所が存在しない。何より単純労働だけでは技術移転が起こらないので使い潰されるだけだ。

「西欧の束縛から解き放たれる」というように、悪いことばっかりでもないはずだが──建物や道路がいくらあろうがそれだけで発展するわけでもない。いくら仕事がないからといってもはや経済大国となった中国に悪辣な値段でこき使われるのがいいことかといえばそれも違うだろう。アフリカ諸国だってこうした状態はわかっており、なんとかして中国と適切な関係を結び直そうと苦闘を続けている。

それがどこまで身を結ぶのか──現状ではまだまだ予測はつかない。本書はそのあたりを統計的に予測したり分析したりする本ではなく、基本的には現場の声を拾い上げていくドキュメンタリーである。これ一冊で中国人とアフリカ人のあいだにある微妙な空気感というか、お互いがお互いをどう思っているのか、中国人がそれぞれどのような動機でこの地を目指し移民が拡大しているのかはかなり把握できるはずだ。

余談

それにしても、読み終えてもあまり一貫したものを感じないのは、結局のところ中国人の末端労働者や特に政府の支援を受けているわけでもない事業家一人一人(これらが多数を占める)はかなり無計画に、ほとんど追い出されるようにしてアフリカへとやってきており、そこに構造や壮大な狙いがあまり感じ取れないからかもしれない。

それじゃあなぜ「帝国」などと勇ましい単語が(原題からして)ついているのかといえば、たとえ帝国をつくりあげようとする意図がなかったとしても、自国のルールである賄賂や騙し、違法な労働を駆使して仲間を次から次へと呼び寄せる野心が結果的に似たような状況を引き起こしかねないからだろう。そういう実感を持てるのも、地道な取材あってこそのものだ。同じ白水社だと『ネオ・チャイナ』もくっそおもしろいので中国を知りたければオススメ

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