基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

それぞれ異なる味で楽しませてくれる、傑作巨大人型ロボットSF三部作がついに完結!──『巨神覚醒』

巨神降臨 上 (創元SF文庫)

巨神降臨 上 (創元SF文庫)

シルヴァン・ヌーヴェルのデビュー作『巨神計画』から始まる巨大人型ロボットSF三部作が、この『巨神降臨』でついに完結! いやーこれは本当におもしろかった。一部、二部、三部とまったく異なる「巨大人型ロボット物」の方向性が展開し、エヴァ好きもイデオン好きもグレンダイザー好きもSF好きも全方向的に満足させてくれる、まさに傑作にふさわしい巨大人型(とはちょっと違うが)ロボットSFなのだ。

三部作全体の見取り図をざっと紹介する

未読者向けに全体の見取り図を紹介しよう。第一部『巨神計画』は、アメリカで発見された全長約6.9メートルにも及ぶ巨大な「手」と、それから次々と見つかった各地に点在するロボットのパーツをめぐる物語である。その物語がまた幾つかの軸に分かれていて、たとえばロボットに書かれている未知の言語を解き明かす言語学パート。

ロボットのパーツは地球にはほぼ存在しない特殊な素材が用いられており、それをどうやって集めてきたのか、また、ロボットをどうしたら操作できるのかを推察する物理学パート。さらには、それはどこからきて、何の目的で埋められていたのだろうか? を推測し、巨大な力を持つであろうそのロボット/パーツを、「どの国家が手にするのか」をめぐるポリティカルなサスペンスなど、無数の読みどころがある。

巨大人型ロボットって、破壊兵器としてみた時に「人型」である理由があまりないのだけれども、その点本作の場合は「この明らかに地球外の科学力によって作られたロボットは、なんで人型っぽい形をしているの?」という問いかけそれ自体が追求すべき謎になっているのがまず抜群にうまい。で、同時に巨大ロボ物小説の弱点のひとつとして、そのデカさを活かしたど迫力な戦闘シーンも文字だけでは伝えづらいのだけれども、ロボットの背後にある謎と、その国家間の奪い合いについての話にすることで、見事に弱点をクリアしている──と第一部を読んだ時ははしゃぎながら読んでいたのだけれども、それに続く第二部『巨神覚醒』がまた別方向に凄いのだ!

巨神覚醒〈上〉 (創元SF文庫)

巨神覚醒〈上〉 (創元SF文庫)

二部では、一部で奪い合っていた一体のロボット「テーミス」の他に、第二の巨大ロボットがロンドンの中心部に現れることになる。当然突然現れたら人類はびっくりして攻撃しろ! いやするな! と喧々諤々の議論を繰り広げるわけだが、人類の不用意な行動をきっかけとしてロンドンの中心部がまるごと消滅、400万人の犠牲者が出た後に、今度は地球の各都市に突如人型ロボットが合計13体も現れることに。

それに対抗するのは、巨大ロボットテーミスと、エヴァンゲリオン好きの両親によってエヴァと名付けられた、プエルトリコ生まれの特別な血筋を引く10歳の少女パイロット、それに国連地球防衛隊(EDC)で──と「これはオタクのみてる夢か?」としか言いようがない、幻想的な光景が高密度な描写と共に展開するのである。

 〔あたしが生まれたのはEDCがパレードした日だったの。うちの両親はとんでもないオタクで、SFの大ファンでね。ふたりともテーミスを最高だって思ったわけ。それで彼女の名前をあたしにつけたいと思ったんだけど、なぜかみんなが自分の子どもにテーミスってつけはじめるんじゃないかって考えて、別の巨大ロボットの名前にしたの〕
 ──ロボット?
 〔そうなの。エヴァっていうのはスペイン語ではよくある名前だけど、両親が大好きだった日本のアニメにもそういう名前の巨大ロボットが出てくるんだって。昔のアニメよ。あたしは一度も見たことないけど〕
 ──エヴァンゲリオンのエヴァってことかい? そいつは実にクールだ!

エヴァと名付けられた少女が本物のロボットに乗って人類を守るために戦うなんてまったく実にクールだなあ(いや、どちらかというとドボンクラな気がするが……)。一部から引き続き、世界中に敵性のロボットが現れたら各国政府はどのような対応をとるのか? というポリティカルな描写のおもしろさに加えて、今度は全人類を巻き込んだロボット・バトルだぜ! とばかりに爆走していくのがたまらない。

巨神降臨 下 (創元SF文庫)

巨神降臨 下 (創元SF文庫)

で、二部のラストで衝撃な展開があり、こりゃあ三部『巨神降臨』は帯に「人類の存亡を賭けた巨大ロボット同士の最終決戦」とあるし、異星種族の巨大人型ロボット軍団vs地球で大洗学園の戦車のようにかき集められてきた(そんな事実は僕の頭の中にしかない)人型ロボット軍団同士の一大ロボット戦争が繰り広げられるのか!? と思っていたら、この第三部がまたまったく別の方向へと舵を切っていくのである。

第三部は、読み始め〜中盤ぐらいまでは「え、そっちにいくの!? それはどうなのかな〜〜」と若干否定的な気持ちで居たのだけれども、抽象的に紹介すれば、異星人を巻き込んだ親子喧嘩が世界の命運に直結していくという点でエヴァンゲリオン的であり、この一部、二部を経た作品であれば、第三部としてはこういう形をとるのもわかるなあと思わせてくれる出来で、三部作を通して一つの作品を読んだというよりかは、いろんなロボット物の傑作を同時に読み終えたかのような満足感が残る。

著者はもちろんロボット・ファン

ちなみに著者は無論のことロボット・ファン。本作の着想も日本のロボットアニメを(グレンダイザー)観ていた時に得たという。『The idea for the book came while watching Japanese anime about a giant robot. 』*1「著者について」という短い文章も遊び心満載。『とにかくおもちゃが大好きで、恋人にあまりにたくさんありすぎると思い込まされそうなので、アクションフィギュアをつくる(もちろん、息子のために見え透いた口実として、宇宙人や巨大ロボットのことを書いている。』

最近のインタビューでは大のコスプレファンで、ベスト・コスチュームは自分で作ったグレンダイザーのものだと語っているし、一言で言えば、超・オタクだわな。
www.penguinrandomhouse.com
全篇通して戦争状態なのでお話は大真面目、特に第三部に関しては価値観の異なる異星種族とどのように関係性を築き上げればよいのか、人類間での争いがクローズアップされ、「他者性」という概念をどう定義するかといったテーマが前面に浮かび上がってくる、現代の移民やマイノリティの排斥に関する問題を反映させたような暗い側面が多い。だが、著者のこうした茶目っ気が描写の端々、セリフの数々に現れているおかげでケラケラ笑いながら読めるなど、エンタメとしてのバランス感覚も素晴らしい。

おわりに

本作は語り口の特徴などもあるのだけど、それは最初の記事に書いたのでそっちを読んでください。また、近年の巨大人型ロボット物としては、ピーター・トライアス『メカ・サムライ・エンパイア』が出色の出来なのでそっちもオススメ。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)