基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

読み逃さないように振り返る! 2019年のノンフィクションベスト10

本の雑誌439号2020年1月号

本の雑誌439号2020年1月号

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 本の雑誌社
  • 発売日: 2019/12/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
二〇一九年も素晴らしいノンフィクションが多数出たわけですが、今回は僕が読んだ中でひときわおもしろかったものを振り返っていこうかと。僕もブログで書評を書きはじめて長いですが、今年は「本の雑誌」でノンフィクションの網羅的な新刊書評連載も始まり、ますますノンフィクションを読む必要に駆られている昨今であります。

で、今年そもそも何読んだっけなあと読んだ本を振り返りながら「これは取り上げてもいいかな」というやつをピックアップしていたんだけど、あっさりと二十二冊を超えてしまった。毎年こんなにたくさんはピックできていないので、今年はやっぱり豊作だったのかなと思わんでもない。まあ二十二冊も紹介するのは大変なので、その中から十冊に厳選してご紹介していきましょう。順不同でございます。

十冊を紹介する。科学とか統計系

無人の兵団――AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争

無人の兵団――AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争

まず紹介したいのは、ポール・シャーレ『無人の兵団』。自律型兵器の現在について法的、倫理的、技術的など様々な観点から網羅的に語られた一冊で、本当におもしろかった! 無人兵器にどこまでの自律性を認めるべきなのか。攻撃判断まで任せるのか、そこは最後の一線として人間が決断すべきなのか。完全な自律型兵器を抱えることで、殺人への抵抗感が減るのではないかという倫理的な議論、逆に、精度の高い自律兵器に頼ることで、犠牲は減る! とする主張など、取り上げられていく問いも多岐に渡り、自律型兵器についての基礎的な知識や議論の土台を構築させてくれる。
脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか: 生き物の「動き」と「形」の40億年

脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか: 生き物の「動き」と「形」の40億年

続けて紹介したいのは科学系のノンフィクションとしてマット・ウィルキンソン『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか: 生き物の「動き」と「形」の40億年』。ジェイ・グールドは、仮に進化の過程を再現したならば今とは異なる生物界が現れるだろうと断言したが、現実には変えようのない物理法則があるわけであって、生物の形には物理法則から導き出せる必然性があるのではないか? 歴史を再現したら、同じ形の生物が現れ得るのではないか? をきちんと物理学的に実証した一冊である。同テーマとしては今年は『生命の歴史は繰り返すのか?』もおもしろかった!
ゲームAI技術入門──広大な人工知能の世界を体系的に学ぶ (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

ゲームAI技術入門──広大な人工知能の世界を体系的に学ぶ (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

  • 作者:三宅 陽一郎
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2019/09/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
ゲーム好きに読んでもらいたいのが三宅陽一郎『ゲームAI技術入門──広大な人工知能の世界を体系的に学ぶ』。ゲームAIというとわかりやすいのはNPCだろうが、他にもダンジョンの自動生成、物語を制御するメタAI、難易度自動調整、ステージの品質保証など様々なAIが存在する。本書では、それらがどのようなアルゴリズムによって設計されているのかを紹介し、今世間をにぎやかしている機械学習や遺伝的アルゴリズムがこんな風にゲームの中では役に立っているんだ! という感動を与えてくれる一冊だ。プログラム知識がなくても読める構成になっているのも嬉しい。
Uberland  ウーバーランド  ―アルゴリズムはいかに働き方を変えているか―

Uberland ウーバーランド ―アルゴリズムはいかに働き方を変えているか―

最近うちの周辺を歩いている時にUberEatsのかばんを持って走っている自転車を見る頻度が増している(自転車の五台に一台ぐらいがUberEats)のだけど、その裏側でどのようなアルゴリズムが働いているのかがよくわかるのが『Uberland アルゴリズムはいかに働き方を変えているか』だ。Uberのアルゴリズムは簡単に表現すれば、気まぐれで実験的で、ドライバーたちの都合は必ずしも考慮されず、「けっこう悪い」ことをやっている。Uberの話に終始しているが、将来的には我々の多くがアルゴリズム上司を持つであろうことを考えると、他人事とは思えない一冊だ。
測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?

測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?

Uberの本と同じく今後の趨勢を考える上で読んでおきたいのがジェリー・ミュラー『測りすぎ──なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』。人事評価をするときに、大きな企業になればなるほど人を定量的に評価したくなる。その方が平等で、労力がかからないからだ。しかし、そうした評価の問題は「測れるものだけで評価してしまうこと」にある。たとえば、外科医を成功率だけで評価するようにしたら、自分の評価を考える人間は難しい手術に挑戦しなくなり、結果的に犠牲者は増える。なにを測るべきで、どういう時に評価が失敗するのか。一度読んでおくといい。

十冊を紹介する。物語とか事件、社会、経済系

世界物語大事典

世界物語大事典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2019/10/11
  • メディア: 単行本
物語を読む習慣がなくとも、教養として抑えておくのもいいよ、と提案したいのがローラ・ミラー『世界物語大事典』。この世界には様々な本が存在するが、その中でも「現実から離れた」、つまり神話とかSFとかファンタジィを中心に、太古の『ギルガメシュ叙事詩』から現代の『ハンガー・ゲーム』まで紹介していく一冊である。

ウェルズ『タイムマシン』、オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』、スタニスワフ・レム『ソラリス』など、紹介されていく本は多様なので、自分が読んだ本がどのように解説されているかを楽しむもよし、読んだことのない作品を知るのにもよし。図版が多く、ぱらぱらとめくっていくだけでも大変に楽しい一本である。

魔王: 奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男

魔王: 奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男

事件・評伝系の本もおもしろいのがたくさん出たが、その中から一冊選ぶならエヴァン・ラトリフ『魔王:奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男』。とある麻薬王を描いた本なのだけれども、最初「いうて魔王は言いすぎでしょ」と思っていたら、インド洋に浮かぶ島国のセーシェルに傭兵を送り込んでクーデターを起こそうとしてたとか、(自分たちの)王国を作り上げるんだと度々側近に語っていたとか、その所業の無茶苦茶さはまさに魔王。著者の筆致も煽りまくりでとにかくおもしろい!
デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する

デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する

  • 作者:カル・ニューポート
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/10/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
今年もっとも僕の行動に影響した本はカル・ニューポート『デジタル・ミニマリスト』だ。現代のSNS、絶え間なく通知を送ってくるtwitterやfacebookがいかに我々から集中力を奪っているのか、またどうしたらそうした各種SNSを確認する頻度を減らし、SNSから開放されることができるのか──について語られた一冊である。それ以前に僕は『140字の戦争 SNSが戦場を変えた』を読んで、twitterに対して嫌気がさしていたのだけど、本書(デジタル〜)はそこに指針を与え、後押しをしてくれた。
岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。

岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。

続けて今年もっとも編集の力に感動したのが『岩田さん』。任天堂の社長だった岩田聡さんの言葉を厳選し、編集し、まとめた本になる。岩田さんはたくさんの言葉を残しているから、でかい本にしようと思えばいくらでもできるのだけれども、本書は本質的な部分だけをすっと残し、短く、鮮やかにまとめあげている。岩田さんがお菓子があるとどんどん食べるから社内でときどき「カービィ」と呼ばれていたことなど、私人としての側面がみえてくるのが本当に魅力的だ。
みんなにお金を配ったらー―ベーシックインカムは世界でどう議論されているか?

みんなにお金を配ったらー―ベーシックインカムは世界でどう議論されているか?

最後に紹介したいのはアニー・ローリー『みんなにお金を配ったら──ベーシックインカムは世界でどう議論されているか?』。最低限の保障として、すべての国民に毎月一定のお金(たとえば十万とか)を配ろうというベーシックインカム制度についての本である。世の中ではAIやロボットが人間の労働を削減し、失業者が増える。それが問題だという。でも真の問題は労働が削減されることではなくて、労働しないと生きていけない社会ではないか。実際にベーシックインカムが導入されている地域は多くあり、本書はそれを紹介・検証することで、可能性を模索してみせる。

おわりに

単純なおもしろさで十冊選んだというか、ある程度多様性を重視して(分野がある程度ばらけるように)選んでみましたがどうでしょうか。非常におもしろい本、考えの基礎となる本、考えを発展させてくれる本、行動を誘発させてくれる本ばかりなので、年末年始にでも買って読んでみてね。