基本読書

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すべての恒星や惑星、そして生命の生みの親である、宇宙の最初の星々について──『ファーストスター』

はじめに

我々が暮らしている宇宙が「ビッグバン」と呼ばれる爆発的事象によって発生したらしい(その前に何があったかはともかく)というのは多くの人にとって常識になっている。そこまでは確かだとして、ではビッグバンが起こった直後の宇宙はどのような世界だったのか? たとえば、今のような宇宙──銀河があって、その中に太陽のような恒星や、地球や火星のような惑星があったりなかったりする。

そのようなイメージを抱いている人もいるかもしれないが、実態は異なっている。この宇宙ができたばかりの時、まだ星や銀河といった光り輝く天体は存在せず、水素やヘリウムという単純な元素が漂っているだけだった。地球上の生物が単純な構造からはじまって、進化の過程で複雑な機構を獲得していったように、宇宙に点在する惑星もまた、単純な素材の惑星→複雑な素材の惑星と世代を経て変化していったのだ。

宇宙に最初に生まれた星々を、「ファーストスター」といい、本書は文字通りこれについて書かれた本である。ファーストスターは観測も一苦労なのだが、観測技術・手法の発達もあって、近年探索がはかどり日々新しい論文が上がっている。本書はそうした最前線の世界を教えてくれる。僕も宇宙ノンフィクションはたくさん読んでいるが、本書に書かれていることは知らないことばかりでたいへんおもしろかった。多少専門色は強いが、理解しようと思って読めば、誰でも楽しめるだろう。

ファーストスターとはどのような星だったのか?

ファーストスターが宇宙を輝かせはじめたのはビッグバンから2億年頃だった。その最初の時、宇宙はあまりに高温で混沌としていたので、水素とヘリウムよりも重い元素はまだ存在していないので、ファーストスターはその二元素のみで構成されていた。

では、現在の宇宙を構成している複雑な元素はいつ生まれたのかといえば、ファーストスターの中である。核融合反応によって水素からヘリウムが生まれ、ヘリウムによってさらに多くの核融合反応が起こって炭素やベリリウム、ネオンや酸素を生成することができる。ファーストスターが死んで周囲を汚染すると、第二世代の星には金属の含有量が増えていて──と、星の誕生と死が繰り返されるうちに世界は豊かになっていく。ファーストスターは我々の生命、地球を含むすべての母なのだ。

どうやってまとまるのか?

なるほど最初の星は水素とヘリウムでできていたのか、といってもまだ多くの疑問が残る。たとえば、それはどうやってまとまるのか。初期宇宙の構成物質はほとんど水素だとして、最初の宇宙とはいってもそこまで窮屈なはずがないし、ばらばらに散らばった水素が巨大なガス雲を形成して重力で星になるまで成長するものなのか?

考えられている仮説には、宇宙に存在する総質量の85%を占めると言われ、重力を通して宇宙の物質と相互作用する「ダークマター」が関わってくる。初期宇宙ではビッグバンの後、ガスはあまりに高温だったので、収縮して星へと育つことができなかった。星が星の形を成すには重力による収縮に対抗できるだけの。核融合反応などによる外向きの力が必要だが、高温だとエネルギー量が多くガス雲から飛びさってしまうからだ。そこで、熱を下げた要因として注目されたのがダークマターだった。

ダークマターは光学的に観測できないので直接検出はされていないが、状況証拠からこのような性質を持っているのではないか? という推測はいくつも行われている。そのうちの一つに、ダークマターはかつては低温だった、という説がある。低温であるならば収縮することができる。シミュレートによれば、ダークマターは収縮し、密度が高くなって蜘蛛の巣のようなフィラメント状になり、宇宙全体を覆う。

ダークマターは電磁気的な相互作用によって熱を失うことができないので、一定の大きさと質量=重力効果を持ったまま宇宙に偏在することになる。すると当然、重力にガス雲が集まってくる。『宇宙全体にダークマターがクモの巣構造に広がると、冷却中のガスには、重力の作用でまとわりつく土台ができた。そうしたダークマターの集まりの重力が原因となり、ガスはクモの巣と同じパターンに沿って収縮した。』

ダークマターは物質と直接相互干渉できないのではないか?

高温のガス雲が低温のダークマターによって熱平衡状態となり、まとまることができた──ファーストスターができたきっかけのひとつは、ダークマターにあったのではないか、というのだ。でも、そもそもダークマターは直接観測できないし、物質と重力以外では相互作用しないんじゃなかったっけ? と疑問に思うところだが、これも仮説のひとつだが、「昔と今とでは状況が違う」という説もある。

たとえば、たしかに今のダークマターは物質と重力以外では直接相互作用してはいない。もしするのであれば、実験装置で検出されていたり、人間に直接影響が出ているはずだ。それには、当時と今とで異なる宇宙の状態が関係しているのかもしれない。宇宙の粒子の速度や温度は、ビッグバン直後と今とで大きく異なっているから、そのどれかが引き金となってダークマターは相互作用をやめた可能性がある。

暗黒時代の宇宙は、ほかのどの時代よりも穏やかな環境であり、ガス粒子はどの時代よりもゆっくりとした速度で動いていた。したがって、ダークマターの衝突は低温の環境であるほど最も可能性が高くなるとすれば、暗黒時代こそ衝突が最も起こりやすい時期だといえる。そのため、近ごろは人付き合いが悪いダークマターも、昔はずっと社交的で、ほかの物質と相互作用をしていたのである。

おわりに

とはいえこれって無理やりに仮説に仮説を継ぎ足してるだけなんじゃないの? と思うかもしれないが、実際にはこの記事では説明しきれていないいくつもの仮説の土台の上に成り立っている。初期宇宙に存在した水素の存在を分析すると、当時の宇宙の状況を考えると推測される値よりもガスの温度が二倍以上低かったこと。また、原初の宇宙に漂っていてガスの温度を下げる要因として考えられる唯一のものがダークマターしか考えられないことなど、それっぽい状況証拠が存在しているのである。

簡単そうに言っているが、ファーストスターを観測するのは至難の技だ。第二世代、第三世代の星の輝きが宇宙には入り乱れていて、ノイズを除去して目当てのものだけを選び出さなければならないが、それが難しい。本書では、どうやってその難しい観測を成功させられるのか、ノイズを除去できるのかについても詳細に語られているので、興味があるひとはぜひ手にとってもらいたい。

最近でもこうしたニュースがあるぐらいには、ホットで発見が続く世界なので、一度読んでおくとニュースの解像度がぐっと上がるだろう。
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