基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界

これは楽しい。書名から内容は「サヴァンアスペルガーの中でも特殊な能力を持った人たちへのインタビューをまとめたものかな?」と思っていたのですが、結構違いました。現代派Embracing the Wide Sky A Tour Acrossでエミリー・ディキンソン「頭のなかは空より広い」が元になっているようです。こちらの書名には、内容がよく現されています。頭、つまり脳が、どれだけの不思議さと能力を持っているのかの解明。そして自身が天才的な能力を発揮するサヴァン症候群の著者が自身の脳を分析して、それがどのような機能を持っているのかを紹介しています。

目次──Amazonより

第1章 空より広い
第2章 脳を測る―知能と才能
第3章 ないものを見る
第4章 言葉の世界
第5章 数字本能
第6章 独創性という現象
第7章 視覚の不思議
第8章 思考の糧
第9章 数学的な考え方
第10章 脳の未来

驚いたのは、話題が多岐にわたること。そしてどれもが魅力的なエピソードで溢れている。かなり多くの本や実験がつまみ食い的に紹介されていて、この一冊で多くの本を味わう事も出来る。よくありがちなのが、他人の話の引用ばっかりで全体としての構成がばらばらだったり、著者の意見がさっぱりわからなかったりするのだが、ちゃんと意見があり、その上で紹介されていくので違和感なく読める。

あと、本人が自分を分析して語るところがまた面白い。著者のダニエル・タメットさんは『ぼくには数字が風景に見える』を書いた人で円周率を2万2千桁以上を暗唱してヨーロッパ新記録を樹立したと言う。ヨーロッパ新記録っていうか、それ世界記録じゃないのと思うがどうなんだろう。ていうか2万て。それだけの数、言うのも大変だな。で、その理由の一端が本人は、共感覚にあるのではないかという。

これがどういうものかというと、彼には数字が風景に見えるという言葉通りに、6は小さくて9は大きい姿をしている。また3は丸くて4は尖った形をしているという。1は明るく、11は丸くて明るい。これに対する彼の仮説は「脳の中で混線が起きているのではないか」というものだ。要するに数字と言語をつかさどるふたつの領域のあいだは本来入り混じらないはずが、何らかの理由で繋がってしまっている状態と考えてもらいたい。

自閉症てんかん統合失調症のような神経症に対して、研究者たちはこれは独立した機関同士に異常な混線が生じた結果ではないかと考えてきたと言う。数字が風景に見えるという共感覚はその副産物なのかもしれない。彼はキリンといった単語で僕達が思い浮かべる「首が長い」「でかい」などの意味の関連性のように、23という数字を思い浮かべると529(23の二乗)のような関連性が浮かび上がってくると言う。凄いなあ。

独創性についての章も興味深い。著者は一貫して「コンピュータと人間の脳は似ていない。別ものである」という主張をしているが、その理由とは主に「創造性」の部分にあると思う。コンピュータはアルゴリズムに従って、計算をし、答えを出す。それならば機会は人間のように真に創造的に考えることはできない。『なぜなら創造性とは、規則に従って結果にたどり着くのではなく、むしろその規則を曲げたり壊したりしていくことで手に入れられるのだ*1

これはよくわかる。が、コンピュータが発想の飛躍が今のままできないのか? と考えると、うーんそうは思いたくないなあとちょっと抵抗したくなる(笑)この後で関連性がないように見える物や発想を繋げるという能力が、独創性の核心にあるとも言っているが、そこにコンピュータが絶対にたどり着けないと否定することもまたできないでしょう。

その関連のような内容で人間と機械が合体し、自身をデジタル化してネット上にアップすることで永遠の命を持つようになると提唱するレイ・カーツワイルの考え方を「人間の脳はデジタル様式のコンピュータと類似しているという誤った発想だ」と批判する。さらに「人間の現状の救いの無さに反応しているだけで、こうした機械化された楽園を夢見ることは、研究的な向上心から生まれたものではなく、恐怖から生み出されたものなのだ」と言っているが、後者には少し頷いた。

僕はできるだけ、なんとかして、レイ・カーツワイルさんの考え通りになってくれたらいいなぁ……と祈っているわけですが、しかし彼って健康で長生きする為に毎日何十種類も薬飲んだりしていて、「ただ単に死ぬのが怖いから自分が死ななくてもいい幻想を必死になって生み出しているだけじゃないの」って言われると、「これを信じたいと思っている僕自身、そうかもなあ……」と思う部分も無きにしもあらずだなあ……。

って、話はめっちゃそれましたが、面白かったです。結構オススメ。脳の広さ、奥深さにたまげます。脳のなかはまるでおもちゃ箱、真っ白なキャンバスです。自分だけの脳になるように、よくカスタマイズして、好きな絵を書きましょう。最後に、本書でも引用されているリチャード・ファインマンの発言を引用して終わります(単純にいい言葉だなあと思ったから)。

「きみは、こうあるべきだと他人が考えているきみの姿に合わせて生きる義務などない。世の中の期待通りに生きる必要などないのだ。間違っているのはそんな期待をする彼らのほうであり、きみではない」

天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界

天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界

*1:p.186