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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

人間と機械の境界を探る──『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』

明日、機械がヒトになる ルポ最新科学 (講談社現代新書)

明日、機械がヒトになる ルポ最新科学 (講談社現代新書)

SR(代替現実)、3Dプリンタ、アンドロイド、AI(人工知能)、ヒューマンビッグデータ、BMI、幸福学とテクノロジーに関連する諸分野の専門家へと小説家の海猫沢めろんさんが話を聞きに行ったインタビュー集である。

最先端の研究者は本を書く暇なんてないので「忙しく研究している人へと話を聞きに行く」本はありがたい。とはいえ2年前の取材も入っていてそれはもうルポ最新科学ではないのではと思いながら読んだら、確かに古いけれどもなかなか楽しませてもらった。わりと研究の本筋には関係ないというか研究者の素の部分みたいなのが現れているのもおもしろい。石黒浩さんが『僕も、従来の物質的な幸せや金銭的な幸せを超えて、ある程度人が納得するような精神的な幸せというものを伝えられるような気はしています。もしそれができたら、そのとき僕はね、宗教法人を立ち上げる。』とか「宗教法人を立ち上げるのか!!」と驚いたよ。

それぞれの章は20〜40ページほど。この分量(でしかもインタビュー)でその分野を大雑把にすら把握するのは困難なので、「だいたい今はこんなことができるよね」というのと、「今後どうなっていくんだろうね」あたりの話を中心に展開している。まあだいたい現状の一端に触れ、本書に登場する研究者らの著書に繋げたり各種最先端テクノロジーのニュースを追いかけるきっかけにするといいだろう。

明日、機械がヒトになる

「明日、機械がヒトになる」というタイトルは「人と機械がどう違うのか、わからなくなるような瞬間がある」という著者自身の疑問が出発点となって、「人間と機械の境界を探る」ことが目的であることからきている。たとえば「ロボットががんばっていたり、虐げられたりしていると感情が揺さぶられる」現象があるが、人はそこに心を感じているのではないか、だとしたら心とは内面的なものではなく「心があるようにふるまうこと」に本質があるのではないか、みたいな問題である。

人間とまったく同じようにふるまえるアンドロイドや人工知能ができたらそれはだいたい人間といってもいいだろうし、逆に人間が身体を置き換えていって機械になる未来も想定できるだろう。SRや3Dプリンタなどの各種技術の進展はそうした未来を起こし得る。ただ、あまり意味のない問いかけというか、境界があったとすることにできたとして、そんなのはただの言葉の定義の問題でしょうと思うな。

『生まれながらのサイボーグ: 心・テクノロジー・知能の未来』では起きてネットに接続して情報を摂取し、外に出たら車を運転して目的地に行くんだったら「人間は機械と一体化した存在、生まれながらのサイボーグみたいなものでしょう」といっていて、結局どこに人間と機械の言葉の定義を置くのかという問題になっている。

もちろん問いかけをきっかけとして話が展開していくことに価値があるのであって、それでつまらない本になるわけではない。最終的には『人間が機械化することも、機械が人間化することも、すべては人の幸せのためなのだとすれば、もしいますぐ全人類が幸せになったら、技術は、機械は必要ないのでしょうか。』と問いかけ、「幸福学」という「人の幸せの定理を探る」ところにまでたどりついてしまう(7章)。

おわりに

個人的にはテクノロジーの進歩が向かっている先は「人間の幸福」よりは「人間の自由」に近いのではないかと思うが、流れというかストーリー性のあるインタビューなのもおもしろい。知らないこともけっこうあって、3Dプリンタの研究者が「3Dプリンタを生活に溶けこませるためには「消えてなくなる物質」をつくらなくてはならない」といっていてそれは確かにそうだなと思わせられた──というように、興味深いネタはいくつもあるが挙げているとキリがないのでここいらでやめておこう。

本書はcakesでの連載が元になっているが、取材後も技術の進展が各分野で起こっているので数年後にまたどんな進歩が起こったのかという内容でまた読みたいものだ。本書でも話に出ている、3次元に加え時間の概念を取り入れた4Dプリンタも開発に成功しているし。あるいは、東ロボくんプロジェクトや、人工知能による生成など具体的なプロジェクトを進めている人たちにさらに具体的に技術を掘り下げて聞くとか、SRはあってもVRにはまだいっていないしそっちも気になる。
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