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なぜ、地球に巨大人型ロボットが埋められていたのか?──『巨神計画』

巨神計画〈上〉 (創元SF文庫)

巨神計画〈上〉 (創元SF文庫)

巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

ある時、アメリカで全長約6.9メートルの巨大な手と、謎の記号が記されたパネルが発見される。16枚からなるパネルは、縱橫の長さは3メートル×9.8メートル。それらは、放射線炭素年代測定によると3000年前に作られた物だと考えられる。

そのうえ"手"はイリジウムという特別密度が高く、地球ではほとんど手に入らない(年間の採掘量はわずか4トンしかないレアメタル)珍しい金属で構成されている。イリジウムを大量に入手しようと思ったら宇宙で隕石をつかまえるか、地球の奥深くまで掘り進めるほか無い。現代の科学力でさえそんなことは到底不可能なのだが──、いったい、どのような勢力が3000年前に巨大な人型の手を作ることを可能にしたのか?

政治、科学、言語学

という非常に魅力的な導入ではじまる本書は一言でいえば巨大人型ロボットSFである。世の中にはアニメや小説といった媒体を問わず数多くの巨大人型ロボットSFがあるが、本書の魅力はなんといっても謎だらけのその世界観であろう。まず手だけが見つかり、"どれだけのロボット/パーツがこの地球上に存在するのか"、"動かすことはできるのか"、"どれだけの性能を持っているのか、""誰が作ったのか"、"何のために作ったのか"、"なぜ人型なのか"、がなにひとつわからないのである!

手があるのなら、足や頭など他のパーツもあるのでは? と考えるのはごく自然な成り行きだ。最初の手がみつかったのがアメリカであったことも手伝って、国家を挙げて謎のロボット・パーツを集めるために暗躍することになる。そして、調査を進めていくうちにわかったのは、パーツは核反応時に中性子がカルシウムに変化させることによって生まれる、"アルゴン37"に反応しているのではないかということ。

明らかに3000年前の人類につくれるものではないが、そうなると仮にこのロボットを地球に置いていったのが"未知の知的生命体"であった場合、核エネルギーを自分たちで利用できるようになった際に反応して出現させようとしたのではないか──などなど荒唐無稽な推論が語られることになる。同時に、パーツが他にもあることはわかった。調査方法もわかった(アルゴン37を空中からばら撒けばいい)、パーツは磁石のように自動で結びつき、明らかに完成を待っている、と状況は確実に進展していく。

問題は、そのパーツが世界に散らばっていることだ。仮にアメリカがロボットを復活させようと思ったら、世界中の領空を秘密裏に侵犯し、放射性物質を撒く必要がある。要求されるリスクはあまりにも大きく、仮に完成したロボットが巨大な力を持っていたとして、その時地球の勢力均衡は破綻し、騒乱の時代になりかねない──と、未知の記号を解読しようとする言語学パート、ロボットの動作原理を研究する科学パートに加え政治的な領域への対応までもが物語の射程として取り込まれていく。

全篇インタビュー形式(がメイン)の語り

本書がそうした各地や各専門家の間を縦横無尽に横断しながら物語を進めていくための形式として採用したのは、そのプロジェクトを推進する人間をインタビュアーとして、全篇インタビュー形式(一部報告書、通信記録など)で語る手法である。

このインタビュー形式、近年だとマックス・ブルックスの『『WORLD WAR Z』』が有名だが、本書のように謎を断片的に明らかにさせながら一つの大きな絵を描き出していく時には非常に有用だなと今回改めて読んでいて思った。何しろインタビューなので、登場人物の多くはウソや誤魔化しを答えることができる(つまり、著者が開示したくない情報は隠すことができる)。一人の人間が知ることのできる情報、体験には限度があるので、必然的に断片的な情報が寄り集まってくることになる。

また、単純に章を切り替えると場面展開が早すぎ、ぶつ切りになっているという印象を与えるが、インタビュアーという連続性のある人物を挟むことで、連続性を持ってテンポよく切り替えることも可能になっているのもこの形式の利点といえる。(これは僕が考えたことではなく、後述する著者のインタビューから引いたもの。)

理屈と荒唐無稽さのバランス

本書は著者のデビュー作なのだが、新人離れしているなと思ったのが理屈と荒唐無稽さのバランス。まず、巨大人型ロボットってこういっちゃあなんだけど、戦力として考えた時に人型である理由がほぼないので、SFっぽくするためにはそこに何らかの理屈を付け加える必要がある──のだが、本書の場合"なぜこのロボットは人型をしているのか"まで含めて物語を牽引する謎なので、そこを楽にクリアしている。

で、ロボットに関して本書はある部分は緻密に描写してみせる。たとえばパーツの性質について、89%までがイリジウムで、9.5%が鉄、1.5%がその他の重金属としている。ただし割合まではわかっていても、実際にはその重さは想定される物の10分の1しかない。冶金学の常識には明らかに反しているので、まずはいろいろな実験をはじめることになる。『まずパネルの一枚をプルトニウム238にさらし、その光出力を測りました。するとそのパーツは放射性物質で作動するだけでなく、それを吸収していることがわかりました──どのような種類の核エネルギーも吸収するようです。わずかな放射線にさらしてさえ、パネルの光出力は約〇・五パーセント増えました。』

ひええ、と思いきや話はそれで終わらず、『ですがこれはまだまだ序の口です。ほんとうに興味深いのは、それが強力なエネルギー場も発生させるということです。周囲にあるものを破壊するのに充分なほど強力な。』ということまで明かされる。真っ当な科学としての構成物質の分析からはじまって、そうした"常識を超えた"未知の放射性物質の吸収システムを提示し、そのあと吸収したエネルギーを攻撃に使用できることもある──と、ある部分では理屈をつめながら(たとえば記号を解読する言語学の部分なんかも本格的)段階を踏んでどんどん荒唐無稽な話になっていくのである。

政府関係者やパイロット、インタビューアも含めてみな真剣なので、至極真面目な内容のためポリティカルサイエンス・フィクションといった趣のある本書だが、読み進め、なぜロボットが置かれていたのか、地球外生命は何を考えているのかなどの謎が断片的に明らかになっていくにつれ、日本の巨大人型ロボットからの大きな影響を感じさせる内容になっていくのもバランスが絶妙でおもしろい。実際、著者のインタビューを読むとアイディアの元は日本のgiant robotアニメ由来だという。『The idea for the book came while watching Japanese anime about a giant robot. 』
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おわりに

人類は未知なる巨人を前にして、争うのか、はたまた協調の道を選べるのか。また、ロボットが完成した時どこかにいるはずの"開発者"は地球にやってくるのか。それとも、何か別の理由があってロボットは地球に置かれていったのか? それは読んでみてのお楽しみ──といいたいところだが、本書は三部作の第一部であり超いいところで第一部完! となっているので読み終えた時に悶ながら転げ回るかもしれない。

とはいえおもしろいのは確かなので、是非楽しんでもらいたいところ。もう第二部も本国では出ているようだし、本書も増刷がかかるぐらいには売れているみたいなので翻訳が途切れることは心配しなくても大丈夫でしょう。