とにかく文章というか、セリフ回しが凄い。特にデブリンの名言っぷりは、映画コマンドーを見ているかのような感動に包まれる。作戦が開始してからのシュタイナも異常なまでにかっこいいセリフを連発し、こいつらは劇か芝居をやっているのですかな? と聞きたくなるぐらいである。作者であるジャック・ヒギンズの著者近影が移っているが、本人が軍人じゃないのかと疑うような格好をしていて面白い。
本書はチャーチル誘拐を目的とした男達の物語である。作品の中で、この話がほとんどジャック・ヒギンズがインタビューを行うことによってしりえた事実を元にして書いた作品であるという体裁をとっているがあきらかに無理がある。後宮小説では騙されたが、こっちではさすがにだまされない。
こんなデブリンみたいなヤツが実際に居たら恐ろしいことだ。いそうだけどな。
7割近くが、チャーチル誘拐の準備描写に充てられている。準備ばっかりやんけ! と読みながら思っていたが、デブリンが読んでいてかっこよすぎるからまったく飽きない。デブリンが次にどんな面白いことを言うのかずっとわくわくしながら読んでいた。この世は神様が二日酔いの時に作ったに違いない、から始まる数々の名言はこれから書いていく。
本当に残念なことながら、登場人物の名前が最後までちっともわからなかった。セリフの中で呼ばれている名前と地の文で書かれる名前が違うのでそれを一致させるのがまず一苦労。カラマーゾフの兄弟程度の登場人物だったらなんとかなるのだが、落下傘部隊員だけで13人いる上に、その他関わっている人間があまりにも多くて、だれがだれなのかさっぱりわからなかった。読んでいるうちに覚えるだろうと、覚える努力もせずに適当に読んでいたら最後までデブリンとシュタイナの名前しか、記憶に残っていない。
名言集
「そのとおりだ、ミスタ・デヴリン。一つ、おききしたい。きみはなぜ行くのだ?」
「答えはかんたんだ。そこに冒険があるからだ。おれは、偉大なる冒険家の最後の一人なのだ」
「この型の飛行機のことを知っているのかね?」
「どの女よりよく知っていますよ」
「よし、話に入ろう。お前さん、だれのところで働いているんだ?」
「おれだ」デヴリンがいった。
「時折、あなたはどうして今まで生きながらえることができたのだろう、と不思議に思うことがあるわ」
「答えはかんたんさ」デブリンがいった。「これまで、生きようと死のうと、そんなことは一度も気にした事が無いからだ」
こうしてふりかえると、答えはかんさんさ、というのはデヴリンの口癖のようなものか。とりあげた一部以外でも言っているに違いない。デヴリンの世界は、かなり単純明快に出来ているのだろう。だれのところで働いているんだ?→おれだ の流れは凄い。思わず笑ってしまう。