- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/09/06
- メディア: 新書
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「そちらにだれかいらっしゃるの?」と彼女は小声でたずねた。
「たかが皮なめし職人ですよ」同様にかすかな返事だった。
「お休みのおじゃまをするつもりはありませんよ。ちょっとばかりくにが恋しくなったので、口笛で歌を吹いてみたまでです。でも、陽気なのだって吹けますよ。・・・・・・・あなたもよそから来たんでしょ、娘さん?」
Gシリーズ、やけにAmazonの評価が低いなぁと思っていたら批判に共通点がある。一冊で完結していないということだ。確かに真賀田四季の影がちらついて、真賀田四季の事を知らない人間には相当つらいだろうし、他の作品のキャラクターがぽんぽん出てくるのも、突然この一冊だけ読んだ人間にはつらいだろう。そもそもシリーズものを、一冊だけ読むという発想が無かったからさっぱりわからなかった。これもミステリにおけるお約束なのだろうか。ミステリのお約束多すぎじゃね? 何でそんなお約束ばかりなのだ。なんとかトリックやらのミステリ用語はいっぱいあるわ、シリーズものは基本的にどこから読んでもわかるようにしなければならない、とか。しかし森博嗣的には、たぶんどこから読んでも大丈夫なように書いているはずである。確か日記で、SMシリーズについてはどこから読んでも問題ないといっていたのを思い出す。Gシリーズがそうなのかどうかは、知らないけれど。今のところ細かい部分を気にせずに読めばなんてことない。
今回も前回に引き続き、死について語り合う場面が多くあった。特に犀川と萌絵が話す場面はお気に入りだ。生きた状態から死に行くのは出来ても、逆は出来ないのだから生きていることはより上位だと考えられる。だが、死ぬことによって人生が完成するという見方もできる。どちらがよりよいとも限らない。だからこそ一貫して主張されているのは、選択として死を選ぶことが認められるべきであるのではないかという思想なのだろう。今回の事件によってはじめて萌絵が死を意識したというのは、シリーズ通して大きな一つの転換点だったのだろう。ちょうどよくシリーズとしても5作目だし、全10作であろうこのGシリーズ、ここからどう変化していくのか。作品世界の人間も、少しずつ成長していく。最後どうなっていくのか非常に気になるのう。
事件に着目してみると、驚くほど単純な事件である。たった一つの大きなトリックによってすべてが解決し、犯人は判明し動機も純粋なものである。さらにいえば、λに歯がないというタイトルも殺人に大きくかかわっている。思いがけず動機がちゃんとしてあったのでむしろ驚いてしまった。今回はむしろオーソドックスな事件であって、一連のギリシャ文字に関係する事件とは無関係だったのだろうか。単に田村とラムダで、アナグラムが組んであるだけだし、それ以外の意図はなかったのだろう。相変わらず海月君ががんばって解いたあとに、あっさりとそれよりだいぶ前に犀川先生は気づいていた! と出てくるし。
建物が動くことなんかまったく知らなかったのでもちろん今回も事件は解けず・・・。そもそも、本題が別のところにありトリックはあまり気にしなくてもいいかのような書き方だったので、考える事もしなかった。何故全員歯が抜けていたのか、というのも復讐で説明がついてしまったし、犯人がコンクリートに埋め込まれたとかいうジョジョ的な展開かと思いきやそんなこともなかったし。いやしかし建物が動くなんて予想だにしなかった。動くものなんだなぁ。不思議だ。
しかしいつのまに犀川先生と萌絵はただならぬ関係になっていたのでしょうか。有限と微小のパンの内容をほとんど覚えていないのだが、その時にはもうすでにこんな感じだっただろうか。
気がついたら一瞬で五冊読み終わっていた。凄い勢いで読ませる面白さを褒めるべきか、恐るべき薄さをどうにかするべきか。薄くなったことによる利点は思い浮かぶものの、欠点は出てこない。長かった頃と比べても何が違うのかわからん。単純に長かった頃の本の内容を何一つ覚えていないだけだが。ストーリーを説明してくれといわれても、たぶんキャラクターの名前ぐらいしか説明できないだろうことが自信を持って言える。それぐらい適当に本を読んでいたのだ。今考えると恐ろしい話である。