- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/05/10
- メディア: 新書
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彼の女の語る挑発的な巧妙な叙述は、一言一句大空の虹の如く精細に、明瞭な幻影を私の胸に呼び起して、私は話を聞いているより、むしろ映画をみているような眩ゆさを感じました。同時に私は、その公園へ今まで何度も訪れたことがあるらしく感ぜられました。少くとも彼の女が見物したというそれ等の幻燈の数々は私の心の壁の面に、妄想ともつかず写真ともつかず、折々朦朧と浮かび上がって私の注視を促すことはしばしばあるのです。
(魔術師/谷崎潤一郎)
日本人の作品からの引用は珍しい。引用されている部分だけをちらっと読んでも、凄い表現のレパートリーというか、文章の表現の仕方がてかてかとしているというかなんとも書きにくいのだがそんな感じである。読んでいる分には凄いきらびやかな文章で、内容なんかどうでもいいや、なんて気分にさせてくれるのであるがいざ書くとなるとこれがまた非常に面倒くさい。リズムにのることができない。眩ゆさ、なんて一発変換できないので、眩しいとうってからしいを消してゆさを打たなければならないし、彼の女をかのおんなと変換しようとすると蚊の女が真っ先に変換されるし(目を擦る女のせいで)でこうして引用するのも一苦労である。一度読んでみよう、と思わせるに足るすばらしい文章であった。引用されているのが、内容にどうかかわってくるのかさっぱりわからなかったけれど。
気がついたら新シリーズになっていた。ラストに西之園萌絵が東京に来ていることから、Gシリーズのその後のようだ。どうにも面白い。いったいどうやって繋がってくるのだろうか。全シリーズの探偵役が一同に会して、勝ちぬきトーナメント戦をしたらおもしろいのに。ここまで散々推理してきたが、最後に決着を決めるのはやっぱり拳だよな! とかなんとかいって。犀川は弱そうだし、海月はどうなのだろう、さっぱり予測がつかない。萌絵と紅子は女性だから大したことはできないにしても、真賀田四季は恐らく未来予測能力があるので攻撃があたらないだろうってなんでこんなことを考えなくてはならないのだ。
事件からいこうか。今回の事件はえらくまっとうといったら何かおかしいような気もするが、正統派的ミステリだった。うん、さらにいえばSM、V、G、とは違ってキャラクタがそんなに事件に執着していない感じがいい。今までみんな事件に対してがっつきすぎである。ヒントがあれば即座に検討するし、ヒントを得ようと色々頑張るし、事件があると聞けば飛んで行くし、まるで節操がない。でもまあこれはシリーズ一作目だからそうなだけで、二作目以降も積極的に事件にかかわらせようと思ったらがっつかせざるをえないのかもしれないが。とりあえず今回は、巻き込まれた形となる。
双子が出てきた時点で自分が思い浮かぶトリックといえば、入れ替えしかない。それ以外に双子の使い方が思い浮かばない。だから今回も双子が出てきたから入れ替えトリックだな! と半ば決めつけて推理を開始した。そんなことをしていたら当たるはずもないのだが学習能力が無いらしい(客観的に見て)。まぁ今回はシリーズ一作目だから推理は手加減してやるぜ・・・・。そのうち覚悟してやがれよ・・・。
キャラクタについて。保呂草出てきた。そうかそうか、今度はこいつサイドの話か。またやけにクロスオーバーが激しい感じになっている。萌絵はまたしても出しゃばってくるし。トラブル頻発性体質だな。いや、何も関わっていないのだから別にトラブルを起こしているわけじゃないか。萌絵は東京に出てきたんじゃ、警察にコネはないし知人もいないしでそんなにおおっぴらに活動できるわけじゃないだろうし。どうせスポーツカーをみせびらかしながら凄い勢いで走りまわっているのだろうが。
さてさて真鍋君の話である。今回の推理役だろうか。なかなか面白い。少なくとも海月君よりは。いつでもテンションが変わらないところとか、飯をおごってもらうためなら頑張っちゃうところとか、常に客観的なところとか。特にテンションが変わらないというのは良い。ある意味自分が理想としていることだからかもしれない。そう演じきれたらいいな、と常に思っている。自分が無いんじゃないかってぐらいに客観的だし。さっきも書いたが推理役にも、周りの人間にも事件に対する関心が薄いってのが面白いね。今回も真鍋君はたまたまいい案を思いついたからためしてみた、という感じだし。これからどうやって数々の事件にかかわっていくのか非常に興味深い。さらに萌絵が事件にかかわってくるのかどうか・・・。
「君ね、そういうこと、普通にさらっと言うでしょう? なんか、将来、それで人間関係を破壊しながら、ブルドーザみたいに進んでいく気がするなあ」
思わず笑った。人間関係を破壊するブルドーザーか、悪くないね。