- 作者: 東川篤哉
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/07
- メディア: 文庫
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読書メーターの感想しか読んでいないけれど、どうも職務を放棄して女を追いかけまわしたりギャグが笑えないなどといった感想が多い。確かにそう言われてみればそうかもしれない。というかギャグが受け入れられないのは単純に趣味の問題だからとやかく言うようなことではないか。トリックはさっぱりわからなかった、というよりも途中で全く関係ない仮説を真実だと思いこんでしまって思考を停止させていた。なんという大バカ者・・・。隆行のことを笑っていられない・・・。屋上からパラシュートを使って逃げた、なんていうお粗末な展開が正解のはずないのに・・・。ちなみに以下が問題の部分である。
そうだった。そもそも自分は殺人事件の捜査をするためにこの館にやってきたわけではない。休暇中なのだ。それに、沙樹の脚に見とれて、相手が探偵とも知らずに気安く声を掛けたのも自分の方だった。殺人事件は、後から起こったのだ。あぶないあぶない──隆行は自らを戒めた。どうやら自分は刑事としての職務に忠実であるあまり、男としての当初の目的をわすれかけていたようだ。
うむ、岡本太郎も愛のためなら全力を尽くせ! 他のことなんてどーだってええわい! みたいなことを言っていたから君のその性欲に純粋な行動はとてつもなく芸術的行為といえよう。むしろ他の多くの本格推理に出てくる真面目な探偵やら刑事やらにも言ってやるべきだ。普通だったら女にうつつを抜かしている自らを戒めるところだが、仕事に熱心な自分を戒めるという驚異の展開に笑いが止まらない。
刑事である隆行の粗忽者っぷりは笑えるんだけれども、なんか知恵の足りない人間を笑っているようなそんな黒さが含まれている。同様に沙樹もちょっと頭が・・・・。初登場場面でジャガー(車)を三歩で走り抜けて天井にのぼって一席ぶってみせるその異常さが、あまりにも常軌をいっしていて少しどころじゃなく大幅にひいてしまった。そのあともことあるごとに酒をたらふく飲んでいるし、この人は多分私立探偵をやっていなかったら今頃塀の中かホームレスだろうな・・・と簡単に想像できる。いやでも美人らしいからな。案外探偵やめてもなんとかやっていけそうだぞ。結婚とか結婚とか結婚とか。水商売は間違っても出来そうにない。酒を飲んでお客をビール瓶で殴り殺しそうだ、そして塀の中へ・・・。
なんかキャラクターの話ばっかりになってしまったがトリックも凄まじい。十角館と違ってちゃんと建物が建物として機能しているし、六角であることもちゃんとトリックの核に取り入れられている。建物への愛が感じられる。こんなにスカっとしたトリックは久しぶりだ。十文字和臣は間違いなく岡本太郎である。