基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

トップラン―最終話・大航海をラン/清涼院流水

 大事件も中事件も小事件も、見出しだけなら、ほぼ均等なメッセージ量しかない。
 他人のNEWSの大・中・小を決めるのは、受け手の想像力なのだと実感できた。
 NEWSは他人そのもの。他人の価値を決めているのは、身勝手で厄介な想像力。
 単純な善悪二元論などで測れないこの世界。精神的鎖国が、あらゆる差別を生む。
 勝手に壁を築き、時には都合よく壁を壊す。20世紀式の古い価値観は時代遅れだ。
 いよいよ新しい時代が始まる。21世紀──輝ける新世紀の到来が迫っている・・・・。

 これぞ清涼院流水。最終話にふさわしい最高の幕引きであった。前半86Pは前回の復習とオランダについて延々と書いてあるだけなので正直読まなくてよろしい。流水先生は読み飛ばしなんて、邪道だ! 結果だけを追い求める生き方が人生をダメにするんだ! と怒っているがそんなの無視してよろしい。ああでもオランダについてちょっと勉強したいなーという人だけは読めばいいと思うよ。それは置いといて、ラスト付近で明かされる数々の衝撃の事実は凄く面白かった。今までの伏線・・・? というよりもなぞなぞ的な言葉遊びの真の意味が数々と明かされて、ネタバラシにはコズミック的な感動があった。シンプルに言葉遊びとしての実力を評価したいものである。特に感動したのが今までの無意味だと思われたNEWSの羅列に意味が生まれたことである。これはある意味伏線といえなくもない。ただ読む価値があるかないかといわれれば、現時点ではほとんど皆無という他ないだろう。一年を完璧に保存するという趣向を小説の中で凝らしたのだろうが、まだ10年もたっていないので振り返るほど昔ではない。もしこれに価値が出てくるとしたらまだ何十年かまたないといけない。真に感動的なのは、NEWSの羅列を小説でやっちゃって、しかもこれは歴史の保存だと言っている事だろうか。こんなこと、先生以外には出来ないし、やらない。
それと凄いのはこのカット技法である。全体的に散らばっているが、特に174Pからの統制の仕方は見事という他ない。ワード・ラインという一文が二行にわたるのを防ぐ技法から、何列も同じ文字数でぴったり横並びにする技法─シンプル・カット。ダブル・カット。トリプル・カット、ウェーブ・カット。ステップカットスラッシュカット・・・。とにかく技巧が凝らされまくっている。これはやはり小説ではない・・・。もはや芸術、アートのたぐいだ。当然内容はそれなりに面白かったのだが、それ以上に度肝を抜かれたのがこの考え抜かれた文章の並びである。二か月ずつの短期スケジュールの中でこれほどまでに構成しきるとは、やはり流水先生の凄さは細部にある。神は細部に宿るというから、流水先生はやはり神なのかもしれない。ゴッドである。