基本読書

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タイトルマッチ/岡嶋二人

タイトルマッチ (講談社文庫)

タイトルマッチ (講談社文庫)

 ミステリーファンならご承知のとおり、岡嶋氏は業界では「人攫いの岡嶋」と呼ばれている。作品に誘拐をテーマにしたものは多いが、なかでもこの『タイトルマッチ』は異色という意味では一番の作品ではないだろうか。

 エンザでテンションが上がらないのでたまには世間一般的な書評スタイルで書いてみることにする。本書は上に書いてある通り異色な誘拐ミステリである。誘拐といえば通常身代金を要求するのが筋というものだが今回登場する誘拐犯はなんとボクシング選手である三郎に対して、お前の義兄の息子を返して欲しければ三日後の対戦相手をノックアウトで倒せと要求する。個人的な見どころはちゃんと捜査する警察と、意外と面白いボクシング小説という側面である。ボクシングの代表的な作品といえば明日のジョー、はじめの一歩、あと個人的に好きなろくでなしBLUESなどすぐにいくつかあげられるが、ボクシング小説というとまったく思い浮かべることができない。そりゃあ相手とバッティングして眼が腫れたといっても直感的にわかりやすいのはどう考えても漫画だ。ダメージがわかりやすい。そもそも何も小説の題材に選ばれるのが少ないのはスポーツの中でボクシングだけじゃなく、スポーツ全般で言える事だ。だからこそたまにこうやって、ちゃんとスポーツしている小説を読むと珍しくて嬉しい。もっと増えてくれればいいのに。しかしやっぱり小説でやるなら心理描写重視じゃないとなー。

 それからなんといっても警察がちゃんと捜査している! それだけで安心感が凄い。何しろほとんどのミステリで超人的な探偵が足を使ったり論理思考で犯人を導き出したって、そりゃすごいけれど実際に身の周りにはいないからなあ。それと探偵小説にありがちなこの人たち事件を解くのをまるで楽しんでやってるなぁ・・・という違和感がない。有栖川有栖が面白いながらもなんか違うなあと思うのがひたすら論理ゲームとして楽しんでる側面があることなんだけれども、そういうところが一切ない。みんな本気。だいたい論理とか無いし。一を聞いて十を推理するのが名探偵。一ずつ積み上げていくのが警察。実際警察にもいろいろあるのだろうけれど、シンプルにかっこいい警察を読めて非常に満足だった。最近自衛隊は実は強いんじゃないかっていうようなことを書いた本が結構売れていたけれど、似たような心理なのかもしれない。最近北朝鮮とか色々危ないことやってそうだけど、自衛隊が強ければ安心だ、とみんなが思った時に、自衛隊は実は強いっていう本を出せば自分の願いを補強したくて飛びつくのではないだろうか。警察に関しても同じ事で、警察さえしっかりしていれば安心だという思いからかっこいい警察を読んで安心感を覚えるのかもしれない。これから先日本の治安が今よりもっと叫ばれるようになったらかっこいい警察を書いた小説が売れるかも? もしくはこんな治安が悪いのは警察がちゃんとやらないせいだ! といって警察を叩くかな。わからぬ。