基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

一生に一度の月―ショート・ショート傑作選/小松左京

最近は読書量が減ってきているので面白いという確信があるものしか読まないようにしているが、たまにこういう息抜きがしたくなる。ああでもラノベ読んでるか。200ページ程で一時間とちょっとあれば読めるうえに、ショートショートなのでトイレでも一篇読める手軽さが良い。内容としては可もなく不可もなくと言ったところか。本編とは関係がないけれど、解説の最相葉月さんの昔のSFとショートショートの関係に関しての話が面白かった。要約するとSFが日本に上陸して最初にHitしたのが星新一だった為に、世間の人にはSF=ショートショートだという誤解が生まれてしまった。この時期はSFの評価が低く、ショートショートでないと文芸誌に発表するスペースがもらえなかったという。SFに冬の時代があったというのはもちろん知っていたが、本当に日本にSFが全く「無い」状態だったとは思わなかった。それもう冬の時代とかじゃないじゃん。惑星がないじゃん。

 「漫画星雲の手塚治虫星系の近傍にSF惑星が発見され、星新一宇宙船船長が偵察、矢野徹共感が柴野拓美教官とともに入植者を養成、それで光瀬龍パイロットが着陸、福島正美技師が測量して青写真を作成・・・・・・・。いちはやく小松左京ブルドーザーが整地してね、そこに眉村卓貨物列車が資材を運び、石川喬司新聞発刊、半村良酒場開店、筒井康隆スポーツカーが走り……」(『SFへの遺言』)

やはり手塚治虫の功績は大きいなあ。草創期の人間も今はもう、みんな高齢もしくはすでに亡くなっていたりと寂しい限りである。中でも小松左京筒井康隆の影響力が自分にとって絶大で、恐らく自分より先にこの二人はいなくなってしまうだろうことを考えるとどうしていいかわからなくなる。筒井康隆小松左京のいない世界はさぞやつまらんだろうと思うのだけれど、新しい人たちがいるので大丈夫と思う他ない。伊藤計劃のような例もいるけれど…。

さて、内容に関して言えばおおむね楽しめたものの、納得のいかないものもいくつかあった。小松左京の何が好きかといったら読み手に伝わってくるような作者の本気というか、俺はこれがかきてえんだよ! というのがわかるところだ。日本沈没明日泥棒果てしなき旅の果てにとそのどれもに本気が込められている。似たような作家といえば夢枕獏だろうか。獏さんは感情移入しているのかどうなのかしらないが、場面場面でボロボロと泣きながら書いているらしい(本当かどうかは知らないが)。似たようなものを、小松左京からも感じるのである。ここのおさめられているショートショートの半分以上は何だか、書かされているとでもいうような窮屈さを感じた。もちろんプロだからその上で何を書くのかが重要なのだが、もしくは以下に書かされている感を、(手抜き感といってもいいかもしれないが)感じてしまったのだから仕方ない。良いものをあげると表題作の一生に一度の月や、宇宙に思いを馳せる話はどれもこれも素晴らしい。宇宙に対する思いというか、SFに対する思いを語らせたら小松左京は日本一だ。間違いなく。