角川のKindle割引きセールの中に紛れ込んでいたので拾い上げた。筒井康隆さんのWebで連載を続けている日記で、今でも読める。⇒笑犬楼大通り 偽文士日碌 僕も最初は読んでいたのだが、今年でもはや80にもなろうというおじいちゃんなので、そこかしこに「老い」が感じられ、見るに忍びなく読むのをやめてしまった。
しかし今こうして通して読んでみると、そうした老いを素直に描いていくのは当然物悲しいものの、それと同時に今尚創作に向き合っており、「作家」として自身を位置づけているのだなと嬉しく思うところもある。
たとえばこんな描写がある。
楠瀬君には短編「アニメ的リアリズム」を渡す。あまりいい出来ではないことをことわり、これがわが最後の短編となるであろうことを通告する。実際、もう短編は書けないと思う。どんなアイディアを思いついても過去のいずれかの作品に似ているのだ。
こんなことを書かれると随分悲しくなってしまう。旺盛に、切れ味の鋭い傑作短編を書き続けてきた筒井康隆からまさかこんな言葉が出てくるなんて。それが老いなのか……おいおいと思いつつも、その後読み続けていくとちゃあんと短編を書き継いでいる。長編も書いている※『聖痕』、そして今度はこんな本も出す⇒Amazon.co.jp: 創作の極意と掟: 筒井 康隆: 本
内容紹介には『これは作家としての遺言である――。』とまであるので、いよいよ店じまいに入っているのは確かだ。それにしても老いとはなんなのかと、読んでいるとそればかり考えてしまう。どんどん周りの人間は亡くなっていき、若かった人たちもまた老いていく。そして何より体力がなくなっていって、活動限界がすぐにきてしまう。
かつて出来たことができなくなっていき、かつてあった関係がなくなっていき、ようは世界と保ってきた自身との関連性が薄くなっていくのが、老いなのだろうなあ。
下記はSF作家クラブのパーティでのスピーチ。
スピーチが始まり、最初に喋らされる。「同世代が死んでいき、気がつけば長老。冗談ではないのだ。星新一は酒と睡眠薬を一緒にのむとヤバいことを教えてくれた。井上ひさしと小松左京は煙草を喫い過ぎると命を縮めると教えてくれた。その教えを守ってはいない。第一世代の生き残りと第二世代はもっと頑張ってくれ。長生きするだけでもSFの役に立つ。もうこれ以上、誰も死なないように」』
老いたる一流の作家が死を前にし何を思い、どう行動していくのか、やはり気になる。よく飲み、よく書き、よく働き、よく喫い、家族に囲まれ、絵に描いたような幸せな老後を送っている。
- 作者: 筒井康隆
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