基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

読者に不快感を持たせるキャラクターの処遇について

はじめに

 最近俺たちに翼はない、というゲームをやっていまして。ゲームといってもエロゲーなんですけどね。これが凄く面白い。まず会話文のセンスがズバ抜けて良い。最初は西尾維新のようなタイプかな? と思っていたんですがそれとも違う。なんかこう、才能とかそういった努力でどうにかなる部分ってのを超えたものを感じるんですよね。良い意味での思考の垂れ流し…というか爆発? そんなものが。語り続けてもいいんですが、いやよくないんですが、しかしストーリー上で気になる部分も多い。それがタイトルに書いたような、怒りを持たせるキャラクターの処遇についてなんですよね。以下色々な作品のネタバレを含みます。おもに伊坂幸太郎の『オーデュポンの祈り』町田康の『告白』田中ロミオ『AURA』とこの俺たちに翼はないの内容について。

俺たちに翼はない

 とっても素晴らしい作品です。それはそれとして、この作品、主人公が三人いまして、問題はそのうちの一人。誰にも負けない生き方として、誰に悪意を向けられてもそれを悪意として認識しない生き方を選んだ主人公の話です。その代償として、この現実は自分にとっての現実ではなくて、本当の自分はグレタガルドというファンタジー世界で最強の騎士だという逃げ場を持っています。学校でもめっちゃくちゃイジメられますが、本人はイジメられているということに気が付いていません。そのことに気がつきそうになると、自動的に気を失ってグレタガルドに行っていたと記憶を改ざんする。言うならば凄まじい中二病であり、その痛々しさと不憫さに読んでいるこっちもつらい気持ちになります。イジメる相手もかなり理不尽な内容で様々な手をかけてくるので怒りがつのる。AURAを彷彿とさせます。

何故怒りを持ったり不愉快になったりしてもテキストを読むのか?

 さて、何故そんなつらい思いをしてまでテキストを読むのか? といったら言うまでもなく、つらい思いをした分を補ってあまりあるカタルシスがこの先味わえるかもしれない…と思うからです。具体例としてこれが非常にうまく機能している伊坂幸太郎の『オーデュボンの祈り』の話をしましょう。主人公はコンビニ強盗をしたのち、誰も知らないような島にやってきます。そこには未来予知が出来る喋るカカシがいたり、警察がいない代わりに独断で悪を裁く「桜」という男がいたりと不思議な島。また島とは別の場所で「城山」という男が出てきます。警察という立場を利用して弱者をむしばんだり女を襲ったりするわかりやすい最悪なヤツです。

 これを読んでいるときに読者が期待するのはただひとつで、いったいどういう風にこの城山というやつが残虐な目に、天罰とでもいうべき報いを受けるのだろう? ということ。『オーデュボンの祈り』はこの一点に集約されるといってもいい。そこに向けて物語はどんどん向かっていきます。桜が島で、独断で人を殺すことの是非について語り合われたり、一方でどんどん描写される城山の不愉快にされる行動の数々。物語の最後で桜に、城山は殺されます。ここが作者の力の見せどころで、いわば作中の登場人物の行動について作者が判決をくだすわけです。たとえば城山は今回殺されてしまいましたが、そこまでの不快感をもよおさないキャラクターだったら腕が一本無くなる、とかだったかもしれません。そこのところを作者が図り間違えると読者も不完全燃焼、テキストを読んでいる間の不快感を解消するすべがなくなって悲しくなる。正直俺たちに翼はないの中で、これが適度に解消されたとは思えないんですよね。

 展開自体はAURAとほとんど一緒で、妄想を現実だと思いこんでいる奴に対して、自分も昔そうだったという理解者があらわれお前の妄想は現実じゃないと事実を突きつけ、一人じゃ無理でも二人でも一緒に、やっていける、まあありがちっちゃあありがちな展開ですよ。ただ問題といえば、イジメの問題にまで話が発展していたのでそっち関係のフォローがおざなりだった印象。『俺たちに翼はない』では主人公をイジめる高内さんというキャラクターが出てくるんですが、今まで主人公にしてきた仕打ちを考えると最後の天罰がとても弱い。天罰か、主人公が報われるかどっちかに焦点が絞れていればよかったと思うのですが。

報いが与えられないパターン

 俗に言う人間失格のような話です。町田康の『告白』がこのパターンで、主人公はダメな人間で、博打を打って金をすることの繰り返し、まわりのみんなが農作業をしている傍ら遊びまわっている。だがその反面とても真面目です。人の言うことをすぐに信じるし、そのせいで何度も騙されます。普通の物語だったら彼には幸せが訪れて、彼をだましてきた人間には天罰が下されますが、この話の中で騙した相手に天罰をくだすのは主人公自身です。作品の中で主人公は神ではありませんから、当然罪をかぶります。その罪から逃れられる…ということもなく、最後は普通に死にます。この場合、なんの救いもないだけにこの展開で読者が納得できるかどうかはひとえに作者の力量にかかってくる。いきなり救いが得られない状況にたたき込むのではなく、じょじょに読者にもわかるように、未来に救いがないことを納得させていく。当然突拍子もない展開を連発させたら読者は放り投げますから、現実的で、読者が簡単に飲み込めるような展開にしないといけない。非常に難しいです。『告白』の場合は主人公自身が天罰となることによって今までたまった怒りを発散させつつ、主人公のバッドエンドにも十分な理由を与えました。
 

まとめ

1.不愉快をもたらすキャラクターと、不幸な目に遭う主人公に対して読者は前者に対しては整合性のある天罰を、後者には整合性のある救いを求めている。

2.報いが与えられないパターンではそれ相応の説得力がある理由が無くてはならない。普通の読者は救いを求めて本を読むので、生半可な理由では受け入れられない。