- 作者: 本谷有希子,okama
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2008/03/20
- メディア: 単行本
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小学生の頃、授業参観でしどろもどろに説明した掛け算の仕組みがたまたま正解。今から思えばそれがすべての始まりでした。まぐれという言葉を知らなかった私は勘違いして調子に乗り、あろうことか「自分は他人とは違うんだ!」と思いこみ続けて、自意識が異常に肥大。かっこつけることに命を賭けた。
お陰で遊園地など行こうものなら、バイキングで向かい側に座った知らないカップルに冷静ぶってる姿を物真似されて遊ばれるし、塾に顔を出せばサザエさんの替え歌で「みんなが笑ってるー、お前を笑ってるー」とエンドレスに歌われるし、毎年必ず担任に「自分が思っているほど誰もあなたを気にしてませんよ」って成績表の余白に書かれる始末。とうとうクラスで私の名字が形容詞(無理し過ぎの意)として使われ出された頃には、私ってば日記に「アトランティス大陸を沈めたの、もしかして自分?」って本気で心配したりしてて……それはさすがに無理があるよ! だってまだ生まれてなかろ? ってな感じで
これを読んだだけで『これはひどい』という感想はある程度共有できるんじゃないかと思う。「みんなが笑ってるーお前を笑ってるー」が実際に言われたんじゃなくて自分で考え出したんだとしたら凄まじいセンスだ! と絶望するし、いや仮に実体験だとしたら言い出したやつは凄まじいセンスだし、アトランティス大陸を沈めたのが無理があるのはまだ生まれてないからとかいうレベルの問題じゃねえから! と思わずつっこみたくなる。
で、まあ自己が肥大化して収拾がつかなくなってしまった俗に言う中二病小説が本書なのです。同じ中二病小説だと田中ロミオのAURAとかといっけん同系列なのですが、あれとは一線を画している。というのも本書の主人公には、彼女の痛さを救おうと頑張ってくれる人がいない。そこが大きな違いです。彼女は一人で痛々しさを発揮しまくっていて、みんながそれにヒいて、ドラマ的に見れば彼女を救う位置に出てきたはずのいわば救世主的なキャラクターも彼女を奈落の底に突き落とす。最後まで痛ぇ痛ぇといわれ続け、結局誰にも肯定されない。まるでカフカの変身のような救いのなさなんですが、ほんたにちゃんが滅茶苦茶ポジティブ思考なので救われます。最後は痛々しさの肯定に無理やりつなげて終わるんですが、そこがまた恐ろしい。
まあ何を書いているのか自分でもよくわからないんですが、本書は滅茶苦茶笑えました。こんなに笑った小説はほんと久しぶりじゃないかしら。ただ自分をさらけ出しただけじゃ、ここまでは笑えません。この面白さは、説明できない。なんでこんなものがここにあるのか、まるで夢のようです。夢のカオスさです。意味が分かりません。