基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

人間力ー自分でツキを呼び、直感を磨く方法ー

人間力ー自分でツキを呼び、直感を磨く方法ー

人間力ー自分でツキを呼び、直感を磨く方法ー

 スピリチュアル的な発言を数多くする船井幸雄さんと、将棋で知られる羽生善治さんの対談本。しかしまあ、いきなりこんなこと言うのもなんですけど、「人間力」ってなんだよっていう話ですよ。ひゅーまんぱわー。ってなんだそりゃ! せつめぇせえ! でもまあ、人間力ってのはようするに「人間」の「力」なわけですから、普通に考えりゃ「人間」てのは難しく考えなけりゃ、そのまんま人間つー意味で、「力」はまあ単純な物を持ち上げるPowerだとか、思考力だとか、力とつく単語はいっぱいありますから、それをひとまとめにした感じでしょうか。人間力とは人間の総合力てことか。何をいまさらっていう感じですが。

 この本を読んでいて驚いてしまうのは、羽生善治氏の博識ぶりです。将棋のプロですから将棋について詳しいのはそりゃあわかります。しかし、それ以外の分野についてもなぜこれほどまでに知識があるのか。たとえば、平然とレイ・カーツワイルの話を持ってきたりするわけです。レイ・カーツワイルというのは「技術的特異点」別の言葉で言うと「シンギュラリティ」を提唱している科学者なのですね。「技術的特異点」が何かと言うと、ムーアの法則でパソコンのスペックは倍々ゲームで増えていく、その計算で行くと、すべての技術が飛躍的な指数観的な進歩を遂げて、人は死ななくなり光速に近い速度で星を行き来できるようになり、人間の脳をそっくりそのままAIで再現できるようになる(らしい)。そのあたりの話はレイ・カーツワイルの未来予測が凄まじい件─誰が得するんだよこの書評で詳しいのでご覧になってください。

 で、こんなのたぶんSFオタクぐらいしか知らないとぼかぁ思ってたんですよ。こんな与太話を真面目に信じて未来を語ってしまうようなの。しかし将棋界のトップにもいるんですねえ、こんな話を信じてしまう人が。それだけではなく、「今の社会のスピードは速い」ということにも何度か触れていて、企業のスピードは100として、社会のスピードは300だという。家庭が40ぐらいで、政府が25ぐらい、法律は1だという。そこで、将棋のスピードはというとこれが、企業のスピードと同じ100。なぜそれが起るのかと言うと、「棋譜」を完全に無料で公開しているからだというのですね。新しい戦略が出ても、一瞬でそれが広まって伝わって研究され、また新しい戦略が出てくる。インターネットのおかげでそれが可能になった。今「フリー」などで話題になっている、「タダで分け合う」ことによる「進化の速さ」に、将棋のレベルでですけれどとっくに羽生善治氏は気づいている。

 将棋をしていく上で必ずしも必要ではないことまで羽生善治氏は勉強しているように見えます。インターネットがもたらす「フリー」の概念だとか、レイ・カーツワイルの未来予測なんて将棋をする上で何か役に立つとは思えませんからね。しかしそれでもなぜ勉強しているのかといえば、そんなの羽生善治氏の勝手でしょう。別に将棋のプロだから将棋の勉強しかしてはいけないなんて法はない。経済学部制だからといって文学を読むな、なんて言われたら経済学部制はキレるでしょう。逆もまたしかり。しかしそれでも、どんな思想も受け入れるという羽生善治の姿勢はやはり、絶対に、どこかで将棋に影響を与えているはずなのです。スピリチュアル全開の誰もついていけないような論を展開する船井さんと話が通じ合っているかのように見えるのも、羽生善治氏の「受け入れる」姿勢ありきだと思います。かっちょえーです。