本日1月31日に阿佐ヶ谷ロフトAで行われた伊藤聡さんと岸本佐知子さんのトークイベント「プロエッセイストの作り方」にいってきました。チケットがまるでアイドルのコンサートか何かのように瞬殺されてしまったそうで、気になっていたけど行けなかったーという人のために少しはどんな話だったかをお伝えできれば、と思います。ちなみに伊藤聡さんは、はてなブログで『空中キャンプ』を書いている人で先日ソフトバンク新書から『生きる技術は名作に学べ』を発表。岸本佐知子さんはフツーに有名な物書きです。
プロエッセイストの作り方ということで、新人物書きである伊藤聡さんが長年プロでやっている岸本佐知子さんにアドバイスをもらったり、二人がいかにしてプロとしてやっていくキッカケをつかんだか、プロでやっていく為に必要なことは何なのか、といったまあ言ってみればトークイベントお決まりの話題が明かされるのかと思ったのですが、実際は脱線しまくりの、でもそれでいて愉快なお話になっていて大変楽しかったです。司会役の速水さんはちょっと困っているようだったかな?
トークショーは4章構成になっていて、1章では岸本佐知子さんと伊藤聡さんがいったいどんな子供時代を送ってきたのかについて。2章では書くこと全般について。第三章では英語と日本語について。第四章では、エッセイから創作へという流れでした。そういうわけで一応章ごとのテーマはあったはずなのですが、そのテーマに沿って話が進むのかと言えばそんなことはなく、脱線に次ぐ脱線の連続で終わってみればテーマなんて必要あったのだろうか? と疑問が。しかしこのトークイベントで岸本佐知子さんが言っていたことを取り上げるならば、それもまたテーマ性に沿った結果だったのかなと思います。以下収納
期待を外せ!
何を言っていたかと言うと、岸本佐知子さんが「依頼を受けたら、求められているものとは違うものを書いてしまう」「読んだ人から苦情がくるのをむしろ望んで書く」という姿勢についてです。旅についての雑誌から何か書いてくれと依頼がくれば「旅がいかに嫌いか」を書き、30代の女性に向けてかかれているおしゃれな雑誌から巻頭エッセイである「あなたの部屋にある大切なもの」を依頼されれば「昔買ってた猫が骨折したときにしていた汚いギプス」を取り上げるなどと、ちょっと外してくる。そんなことをやっていると、そこからはもう依頼がこなくなったりもするんですが、そういうあるべきルールからの「脱線」が、おもしろいじゃあないか! という感じで。たしかに面白さの源泉っていうのは「驚き」だったりしますから、「こういうのが来ると思っていたら全然別のが来た!!」というのは「期待外れだった…」派もいるでしょうけれど「こういうのもありだな!」と思ってくれる人もいますよね。脱線しまくりのこのトークイベントでしたが終わってみれば「なんだ、テーマに沿っているじゃないか!」と手を打ちました。脱線してこそ面白いと。それにしたって王道、真面目あってこその不真面目ですので、どちらが良いという話ではないのですが。
個人的にはやはりエッセイストとか物書きにはどうやったらなれるんだろう? といった部分も気になっていたのですが、あまり語られず。まあ地道に好きなことをやっていたら二人ともその道に至ることができた、というところでしょうか。伊藤聡さんはブログを書いていたことからメルマガに執筆を依頼され、そこ経由で本を出すことになり、岸本佐知子さんは趣味として始めた翻訳がいつのまにか本になっていたりといった感じ。
物書きになる前に仕事に就け!
あと、物書きの生活についても語られていて、会社勤めが以外なほど多くのことを知ることができる場である話とかも面白かったです。岸本佐知子さんも元は働いてサラリーを得ていた人ですし、伊藤聡さんは現役です。利点は、リズムのとれた生活、仕事仲間との関係。安定した収入のある安心感。伊藤聡さんは会社にいるパートのおばちゃんと昼休みに話すのが楽しいと語った後に、でも仕事があるからこそおばちゃんとはなすのであって、仕事をやめてしまったらわざわざおばちゃんに「今からはなせない?」とかいって呼び出すことはできない。仕事だけでつながっているわけですけれども、大事な関係なんですね。普段繋がらない人とも繋がれる仕事もいい。そもそも人と会わないと発想が刺激されない、とかいう話もありました。純粋にライター仕事だけをやっていると、同業者としか会わないので、色んな人と会える会社勤めがうらやましい、とか速水さんも言ってました。
まあそんなこんなでまず就職いいよ、就職しないとわからないことがいっぱいあるよ!! というのが最終的な結論。物書きになりたい人たちっていうのはたいてい会社勤めなんかできないーっていう人たちでしょうから、そんなこと言われてもーと思うかもしれませんが、真実かどうかはともかくとして、作家側からしてみれば会社勤めがすごく魅力的に見えるのは確かなようです。ちょっと前の円城塔×中上紀トークショーでも同じことを言ってましたしね。確かに作家って、自由な印象がありますけれども自由は自由で与えられるだけ与えられると結構つらいものがある。自分で決めなくちゃいけないので。朝起きる時間も、夜寝る時間も、全部。。仕事をここからここまでやるという時間も。だから縛られた方が基本的には楽だったりするのかなーと。
他細かいエピソード
ここでは割かし役に立ちそうな話だけ書きましたけれども、実際は色々と細かいワンエピソードで完結しているようなお話がいっぱいあって、そっちの方が面白かったかもしれません。伊藤聡さんが道を歩くときに自分ルールを作って歩いている話とか。岸本佐知子さんの筒井康隆に出会って凄まじい衝撃を受けた話とか。そういえば今思い返していて不思議に思ったのですが、岸本佐知子さんについてはなるほどそういう人なのか―というのが伝わってきたのですが、伊藤聡さんは謎の人のまま。小さい頃影響を受けたものは何かという話にも、未来少年コナンとか(NHKしか親が見せてくれなかったらしいです)の真面目な作品を挙げていたり、戸田奈津子さん(字幕家?)を強烈にDisり始める速水さんと岸本さんに対してあんまりイジメないであげて! という趣向の発言をするなど、踏み込んだ話が少なかったせいかな、と思います。
岸本佐知子さんの筒井康隆に衝撃を受けた話をもう少し詳しくしましょうか。元々小説に対して「なんで文字なのに、何でも自由にできるのにこんなに普通の話をみんな書いているんだろう? 面白くない!」という思いがあったらしく、しかし修学旅行に行く時に移動の時間が暇だからと筒井康隆の短編(タイトル失念)を買って読んだところ、そのあまりのハチャメチャさに衝撃を受けてそれ以降の修学旅行の記憶が飛んでしまったそうです。同じく衝撃を受けた自分からすればその気持ちはよくわかる気がします。筒井康隆が壊した小説性みたいなのは、やはり凄かったんだなと今さらながらに実感したり。
あまり長くなってもあれなんで(伊藤さんも、ブログの文字数はあまり長いと読んでもらえないので、読みやすさを重視して1200文字ぐらいになるようにしていると言っていたし。大幅にオーバーしているが…)これぐらいで。少しでも行った気になれたのならば幸いです。……次からは文字数1200文字ぐらいにしよ…。