エントリ名は佐々木敦氏の解説より引用。文庫化に際して解説と書き下ろし分を読んだ。新たに書き下ろされたものは以下の二編『Bobby-Socks』『Coming Soon』。ボビーソックスは靴下のボビーが男に男前な声で話しかけてくるなかなかアレな話。男前の声と、日用品が喋るという点でスポンジボブを彷彿とさせるが特に意味はない。カミングスーンは映画予告風小説で、この『Self-Reference ENGINE』の次回作を予告しているようにも読める。いや、次回作といってもですね。ぶっちゃけ円城塔先生の作品のタイトルは全部『Self-Reference ENGINE』でいいんじゃないか、とこれを読んでいたら思います。というか、著者名を『Self-Reference ENGINE』にいいんじゃない? とか。
解説は(しかしよく円城塔の解説を引き受けようと思ったものだ)佐々木敦氏で、あっているか間違っているかはともかく堂に入っており安心感と説得力がある。なぜ安心感を覚えるのかといえば、円城塔先生の作品の感想をネットで読むと、大抵「よくわからないが──」という前置きがついて、それはきっと全人類共通の思いであろう、もう今更書くまでもない、りんごから手を離したら地面に落ちるのと同じぐらい自明のことであろう、と思うので佐々木敦氏のように真正面から「よくわかんないけど」とか言わないで書いてくれた点が良かったからかな。
なぜ安心を求めてしまうのかといえば、『Self-Reference ENGINE』を読んでいると不安になるんですね。たしかなものが何もないから。『Self-Reference ENGINE』では、Eventによって時空軸が入り乱れてしまった世界を書いています。たとえば時間軸が一本の線だとして、それがズーっと未来まで延びていたのだけど、ある時ぐちゃぐちゃー!! って玉だかなんだかよくわかんないようになってしまった感じで。時間がない、といってしまってもいいのかもしれない。そんな状況だと、もう何でもありで。そんな状況で安心できるはずもなく。あと「よくわかんないけど面白い」の「よくわかんない」の部分が不安をそそる。わかんないけど何がわかんないのかわかんない!
初めて読んだときはただ、圧倒されたまま終わってしまったのですが、今こうして読み返してみるともっと圧倒される。文体が天才的な切れ味。わたしが使っているこの日本語がガンダムの「ボール」だとしたら円城塔のは、「フリーダムガンダム」ですよ。もし仮に戦場でまみえたら0.5秒ぐらいで消し炭にされるぐらいの戦力差です。あるいはこの何でもありの物語は、この自由な文体(と発想)、を存分に生かすための土台でしかないのではないか、とさえ思わせる。宇宙が存在するのは、フリーダムガンダムが縦横無尽に実力を発揮できるようになるためさ! みたいな。そもそもわたしガンダムターンAぐらいしかまともに見てないんでガンダムにたとえるのはアレなんですけど。まあそんな感じで凄く面白いですよ。
Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 円城塔
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/02/10
- メディア: 文庫
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