基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

大森望のSF翻訳話を気になったとこだけ文字にした。

 翻訳の裏ワザ 業界の裏話 どうしたら翻訳家になれるのか。などを話している第133回『大森望のラジカントロプス2.0』【ネット版】公開!: ラジカントロプス2.0 | AM1422kHz ラジオ日本 を聞いていたらなんとなく文字にしたくなったので文字にしてみたり。そんなことしていいんですかね? 文字起こし、とは違うかもしれない。聞きなおしたりせずに、記憶を頼りに文字にしているのでかなり違いがあると思われる…とかなんとかいっていたら、なんだか思っていたよりも少し多く人がきてしまっているようで…。誤情報をばらまいて嘘の共通認識が生まれると言うのはまったくもって本位ではないので間違いは極力ないようにします。はい。
──翻訳において日本語で読みやすいのが必ずしもいいものではないというのは?

大森望氏(以下大森):世の中には色々な文章があって、ライトノベル芥川賞ではやはり文章の種類が違う。それらを全部同じように、読みやすくしてしまったら、生きのいい素材があるのにすべてハンバーグになってしまった! ということになってしまう。だから、読みやすかったから良い翻訳、というのはちょっと違うのではないかと思う。

大森:たとえば翻訳において読みやすいにこしたことはないが、レベルを落として読みやすくしたという事になると原作者はむっとすることもあるかもしれない。そのあたりの兼ね合いが問題。

──小説のジャンルによって、お店の雰囲気に合ったものを出す?

大森:翻訳というのはサービス業だと思っている。作者がこういっていたからそのまま出す、というものではなく、読む対象の人を考えて、その人にマッチした、やり方にあったものを出す。押しつけがましくない小説なのに、泣けるでしょ泣けるでしょと言うように出したりするとこれはひどいことになる。

──SFの翻訳ものは読みにくい! ウィリアム・ギブソンみたいなサイバーパンクは難易度が高い!

大森:すべてのSFが読みにくいってことではありません。SFにも色々あって、スターウォーズみたいなものがあれば、物理学の用語がいっぱい出てくるものもある。しかしSFは、基本的には新宿で地下鉄にのったら電車がこんでてまいったよ、というようなお話ではない。少なからず現実から離れていて、そこで一段階ハードルがあがってしまう。

大森:SFに出てくる情景っていうのは現実にはない。そこで読みにくいと感じることはあると思う。サイバーパンクにおけるニューロマンサーなどは話が違っていて、今までのSFとは違う、なんだかわけわかんない! と思わせるのがかっこいいという思考で創られている。お話自体は西部劇にも置き換えられるようなシンプルなもので、だから中に何が書かれているのかってことは、わりとどうでもいい。ただアッと驚くような文章だったので、読みづらい。

大森:ニューロマンサーの時に、黒丸尚さんが造語をガンガン作って(没入と書いてジャックインとか)、なんじゃこりゃ! ということになった。若い作家、冲方丁古橋秀之伊藤計劃などにも影響を与えた。

大森:ニューロマンサーが出たときなどは、SFファンも「こんなのはわからん!」といってファンを辞めたりした。ハインラインとかアシモフとかが好きだった人からは、そうやって反発を受けていった。そのような改革派(ニューウェーブ)と古典派での争いが昔はあり、サイバーパンクもその流れで出てきたもの。これは違うぞ! という印象を与える為にニューロマンサーが出て、翻訳もそれに乗っかった形になる。原文以上に翻訳は過激かもしれない。


──SF翻訳には演出する能力も必要だと思うのですが。

大森:書いてあるものを訳せばいいというのはその通りなのだが、翻訳には正解がない。自分で決めないといけないのだが、そこが一番難しい問題。I love you もあなたを愛していますと訳せば英語のテストでは正解だが、翻訳では必ずしもそうではない。その際、演出をすることになる。

──女性の言葉づかい、ライトノベルの語尾など

大森:〜〜だわ、なのよ、とかみんな同じにしちゃう人がいるけど、今は〜〜だわ、なんていうヤツはいないわけで。わたしも女性的な言葉遣いなどを使う事はない。

大森:英語の場合大抵〜〜と誰誰がいった、という言葉が入る。そうしないとわからないからであるが、しかし日本語の場合、それ程入れなくてもよい。会話が交互になっていることは、読めばだいたいわかるから。だから英語と日本語を比較した場合、十分の一、まあ少なくとも三分の一にはなるはずである。

大森:ライトノベルになるとまた特殊で、キャラクターの区別はみんな口調でつける。そうすると一切〜〜と誰が言ったというのが入らない。それはアニメで、声優さんの声さえ聞けば誰の発言かわかる現象を疑似的に再現しようとしたもので、それは翻訳にも応用できる。

──翻訳の良しあしは字面でわかる?

大森:日本の読者を考えてちゃんと翻訳しているかどうかが一番パロメーターになる。原文をそのまま訳すようなのは、かなりダメな翻訳の一つ。そういうのは結構他のとこも無神経でダメな感じ。

──世の中には超訳というのもあるんですよね

大森:シドニィ・シェルダンなどで初めてやったこと。わたしは必ずしも全否定ではない。ファーストキッチンのハンバーグ的なもの。誰が読んでも読みやすい、という形にして出した。物凄くわかりやすいんだけど、もう少し高級なものを求めている読者からすれば怒った人もいる。

大森:まあでも日本語から英語に翻訳されたものの方がひどい。たとえば村上春樹なんかも、最初期は相当超訳されてかなり改変されている。

大森:昔の日本の超訳は凄かった、最初にさらっと寝っ転がって一回読んで、あとはもう一度も読み返さずに記憶を頼りに日本語で書いたりする。岩窟王とかがまさにそれ。マルセイユの港へ巴丸が入って行った、というように色々日本語にされてしまっていた。

──どうやって翻訳家になるのか! どうやってSF翻訳家になったの?

大森:SFマガジンを小学生の時に読み始めて、そこでは洋書と、どこで買えるのか、総本山はどこか、などの話もあった。中学生から高校生にかけての時にその総本山や、神保町などの古本屋に通っていた。中学三年の時には、受験勉強と称してすでに翻訳を開始していた。英語の勉強とは言ってみれば全部翻訳なんだから、せっかくなんだからつまんない教科書などではなく、面白い小説を翻訳した。

大森:大学在学中に縁あって翻訳させてもらったことがきっかけ。SF翻訳会みたいなものがあって、そこではSF翻訳家たちが集まって一晩飲んだりボーリングしたりカラオケしたりする。そこには大抵ネイティブのアメリカ人とかがいて、翻訳のわからないところを教えてもらったり、普通に教えてもらったりする。

──どれぐらいのペースで翻訳する?

大森:朝から晩までやると10ページぐらい。一カ月やれば、短い長編なら一冊翻訳できる。

──SF翻訳本のオススメを教えてください。

大森:古典の名作、レイ・ブラッドベリの『火星年代記』。すごい翻訳。真似できない。

──大森望さんご自身が訳したものの中でのオススメは?

大森:コニー・ウィリスの『犬は勘定に入れません

特盛! SF翻訳講座 翻訳のウラ技、業界のウラ話

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