基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ロボット兵士の戦争とレイ・カーツワイルと特異点とSFの未来

『ロボット兵士の戦争』という、未来の戦争はロボットが主役となることを預言するような一冊を読んでいたら、レイ・カーツワイルについて一章を割いていたのですが、これが読んでみたら圧倒的に面白い。レイ・カーツワイル氏は発明家であり研究者であり未来予測科学者というわけのわからない肩書きの人で、経歴と彼の語る「特異点」という「未来」の話が素晴らしいです。

元々僕はポストヒューマン誕生という彼の著作を読んでいて、言っていることもなんとなくはわかっていたのですが、そのあまりに壮大な話に正直言ってほとんど半信半疑というところだったのですが、『ロボット兵士の戦争』に書かれている経歴その他を読んでいたら、「ありえるのかも?」という気になってきました。

『ポスト・ヒューマン誕生』の中の壮大な特異点についての話についてはこちらが詳しいですが→レイ・カーツワイルの未来予測が凄まじい件 - 誰が得するんだよこの書評簡単にここでも説明しておくと、宇宙物理学でいう特異点とは、ものごとが劇的に変わって、ルールが崩壊し、科学知識も通用しなくなる状態(p156)だそうです。

僕たちは今、その特異点が起こる間近なところにいるのだと、カーツワイル氏は言います。なぜなら、「人間が生み出した技術の変化のペースは加速しており、そのパワーは指数関数的に拡大している」(p.148)からです。どういうことかというと、ムーアの法則というものがコンピュータ関連の技術では存在します。

マイクロチップ上のトランジスタの数が、二年ごとにほぼ二倍になっていることを表した法則で、二倍になれば処理速度も速くなり、さらに開発が進みどんどん加速していくのでは、ということです。発見された1965年以降40年間定期的に二倍になっていて、さらに今ではスピードアップして18カ月で2倍になっているそうです。HDDが年々加速度的に安くなって大容量になっていくのもこの「ムーアの法則」が存在するからですね。

また同時にワイヤレス通信の速度は9カ月ごとに二倍、光通信の速度は十二カ月で二倍、インターネットサービス・プロバイダのコストパフォーマンスは12カ月ごとに二倍、年間に解読されたヒトゲノムの数は18カ月ごとに二倍……凄い勢いで進化が加速しているのがわかるんじゃあないでしょうか。十年前はとても信じられないような世界が、現時点で今の僕達の身の回りには広がっているといっていいでしょう。

よりコンピュータの処理速度が速くなり、人間がコンピュータよりすぐれている点(並行処理能力)をコンピュータが学びとってたとえば人間の十億倍や一兆倍の情報を処理、記憶できるようになったら、人間より千倍速く進化し、千倍優れた案を思いつき、あっという間に指数関数的に進化して、圧倒的な進化を見せるのではないか。

そうなった状態のことを、ここでは最初に説明した通りに「特異点」と言っているのですね。次の十年は今までの十年の何十倍もの速度で進化していくし、その次の十年は言わずもがな、今より何百倍もの速度で進化していきもはや予想もつかないというわけです。

そして、特異点が起こると予測しているカーツワイル氏の経歴がまた非常に興味深い。まずはこんな発言から。「発明家になると決めたのは五歳のときだ。ほかの子はみんな、なんになるか迷っていたが、私はずっとそううぬぼれていた。それに、絶対になるつもりでいたから、よそ見はしなかった」(p.144)

五歳から考えていたと言うのがまた凄い。僕は五歳の頃の記憶なんて何一つありませんからね。その後カーツワイル氏は世界初の視覚障害者用テキスト音声変換装置(視覚障害者にとっては、点字以来最大の進歩とされた)世界初のコンピュータ用平台スキャナー、世界初の語彙の豊富な音声認識システムなどを発明した。

しかし、途中から発明から未来予測へと自身の能力の使い道を変えていく。何かを新たに発明することよりも、技術と市場の支援がすぐにでも得られるタイミングで発明することが大事だと悟ったからだと言う。タイミングが悪ければ、どんなに素晴らしい発明でも失敗してしまう。

そしてカーツワイルは未来予測をするビジネスを始める。それ以降当ててきた予測がまた凄い。1980年代前半にはインターネットが世界的コミュニケーション・ネットワークとなり、それ以前には出来なかった方法で人類を結びつけると言う予測をした。当然当たった。ちょうどそのころソ連アフガニスタン侵攻で冷戦が過熱していたけれど、あとわずかで冷戦が終結するという予測も、誰もがバカなと言ったがぴたりと当てる。

またおもしろいのが、カーツワイル氏の、自分の身体をもはや絶対不可侵の聖なる領域だとはまったく考えていないところ。自分の身体を徹底的に作り変えようとして、毎日200錠以上のサプリメントを飲んで老化のスピードを抑え、ほとんどの基準で生物学的年齢を30〜40としてクリアしている。いやーすごいですねえ。僕はわりかしすごいひとの言う事はすぐに信じてしまう傾向があるので、ころっと「新世界」の到来を信じてしまいそうです。

もしこれから先、進化が本当に指数関数的に進んでいくとすれば、「人間の本質」というものも変わっていかざるを得ないでしょう。何百年何千年も生態科学的に変化し、生き残れるようになってしまった人類の本質が、シェイクスピアの時代の人間と同じであるはずがないわけで。レイ・カーツワイル氏の予測によればまあそんな進化ごときまだまだ序の口なんですけどね。

この『ロボット兵士の戦争』を読んでいて、勝手に心配に思ってしまったのですが、ここに書かれていることが「SFよりもSFらしい」んですよね。神林長平の「雪風」一歩手前のものが、もうすでに現実に存在していて、今まさに進化し続けているわけで。しかもその進化はどんどんと加速していく……。

もともとSFと科学というのは、ある種のフィードバックを重ねてきたのですよね。アトムが、スターウォーズが、スタートレックがあったから研究者になったと言う人は多くいるはずで、科学者に目標とインスピレーションと方向性を与える。そして新たな発見が出た場合に、SF作家はその発見を元にしてまた新たな作品を書く……。

技術が毎年二倍の速度で進化していっても、人間の想像力は二倍にはならないわけで、近年宇宙技術の発展によって「SFが書く余地が減って言っているのではないか」と言われていますけれども、フロンティアであった「未来」まで「想像しているうちにやってくる」ようになってしまったとしたら、SF作家的にはつらい戦いだなぁ、と思ってしまったのでした。

まあそうなったら脳にパソコンでも繋げて進化すりゃいっかー(´ー(書きつかれた。

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