二人の人間を計画的に殺し、無期懲役囚として服役中の人間が、こうやって本を出版できることにまず驚いたのですが、本書の内容はそれ以外にも驚くことばかり。
刑務所には一生縁がないままでいたいと思うわけですが、一生行かないとなるとそこはもうファンタジーやSFの世界と同じような異世界で、そこで一体何が行われているのかよくわからない。だからこそこうやって、中からの潜入ルポ(潜入じゃないが)をしてもらえると、その世界にいない人間としては実態を知る上で非常に助かります。
驚いたことを適当に書いてくと、途中で服役中の罪人に対して人権運動の高まりが起こって、非常に暮らしやすくなっていることに驚きました。平日は9時から5時まで作業し、5時から消灯の9時までは自由時間。休日は9時から9時まで一日自由。テレビを見ることもでき、本好きの著者は月に100冊程度の本申請して借りたり、買ったりして読むことが出来るとか。
僕のイメージだと服役囚にとって一番つらいのは、娯楽がないことなのかなあと思っていたので、本を100冊も読むことが出来る環境というのは、こういっちゃあなんですけど、ちょっと良すぎるんじゃないかなあと思います。もちろん選ぶ範囲は相当せまいでしょうけど、娯楽はあるんですねえ。
もひとつ驚いたのが、懲役囚のほとんど誰もが反省などをまったくしないらしいこと。むしろ「俺を刑務所に入れる原因を作りやがって」などと、責任を転嫁する人間が大半だそうです。仮に反省して入ってきても、周りの人間がそんな人間ばかりなのでは次第に感化されて「くそったれ!」と被害者に対して何の悔悟の情も持たなくなる。
他にも驚きなのが、中で暮らしている受刑者たちからすれば「十年や二十年の服役はあっという間」と認識しているらしい、ということです。考えてみれば毎日規則的な寝起き、同じ作業を繰り返し、毎日同じ物を見、同じ人と同じ生活を暮らしていれば、人は時間を認識しなくなってもおかしくはないんですよね。
子どもの時と比べて、大きくなってから時間の流れが速く感じられるのは、それだけ周囲の状況に「驚かなく」なっていることが理由の一つとしてあげられるそうです。どれもこれも見たものであり、そこに変化を見いださない場合、人はその時間を認識しない。時間の経過とはつまり変化を認識することだからです。
本書を読むと、一切の反省もせず、娯楽もあり、規則正しく自由時間もたくさんあり、笑い合いながら娑婆に出れる日を待ち望むことのできる現行の制度が、どの程度正しいのかというと疑問が残ります。本書では終身論は以上のように何の反省もしない懲役囚を飼い殺しにするだけで、意味はないとして死刑を肯定しています。
僕は今までは特にこの死刑廃止か、もしくは死刑存置か、という問題を深く考えたことはなかったのですが……うーん……この一冊だけ読んで、即座に答えは出せそうにないです。ただ、終身刑は選択肢から消しておこうと思いました。
- 作者: 美達大和
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/07
- メディア: 新書
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