これは凄まじい。
宇宙計画に携わっている人たちの話を聴いたり読んだりしているだけだとわりと「ああ、夢を見られる素敵な仕事だなあ」という感じだが、その夢を見る為に実際には超巨額な千億とかウン兆とかいうわけわからん規模のゼニが動いているわけであって、夢だけではなく政治的な思惑や軍事的な思惑や経済的な思惑が飛び交っている。
本書が凄まじいと言ったのはスペースシャトルにまつわるそのすべてが網羅されている点にある。少なくとも僕にはそう読める。どのような政治的な意図でスペースシャトルが「失敗」(そう、スペースシャトルには数多くの欠点があって世界中を巻き込んで大惨事を引き起こした)したのか、そしてそれ以上に驚いたのが「技術的な問題点」にまで密な描写が続いている点にある。
政治軍事経済といった社会的な面と純粋なパフォーマンスを見る技術的な面、どちらから見ても書きこみが素晴らしい。
ちなみにスペースシャトルは今年2011年の7月に135回目の飛行を終えて退役した。当初は「何度も行って帰ってこれる宇宙への飛行機」として作られ、年間50回の打ち上げを目指して作られたのだが、実際にはいい時で年9回飛ばすのがいいところだった。しかも致命的な事故が起こり何年も運航停止を挟んでいる。結果が合計135回だった。
恐らくもうスペースシャトルが作られることはないだろう。特徴的な翼と、何度も再利用して行って帰ってくるというコンセプトが衝撃的で今も多くの人はスペースシャトルと聴けば鮮明にその図が頭に思い浮かぶだろう。しかし実際には印象的なその形も実際には人間の「うまくいくという思い込み」を詰め込んだだけだった。
だからこそ今このタイミングで読むのが良いと思う。引退がしめやかに行われた今が、スペースシャトルについて知る絶好のタイミングで最後のタイミングかもしれない、別に知るのに期限はないのだが。またノンフィクションとしてもこうありたいという全方位的な調べ方書き方で非常に良かった。お勧め。

- 作者: 松浦晋也
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/03/12
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