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眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

今を去ること五億四三〇〇万年前、今日見られる主要な動物グループのすべてが、いっせいに硬い殻を進化させ、それぞれ特有の形態を持つにいたった。しかもそれは、地史的にみれば一瞬に等しい期間で起こった。これこそ、動物進化におけるビッグバン、史上もっとも劇的な出来事といってよいかもしれない。では、この「カンブリア紀の爆発」と呼ばれる出来事を招来した起爆剤は、いったい何だったのか。

五億四三〇〇万年前に硬い殻をもった生物が大量に出現したのが、カンブリア紀の大爆発と呼ばれる期間の特徴です。それ以前の時代には、殻を持った化石というものが存在しないのです。カンブリア紀の爆発を起こした原因はいったいなんだったのか……。それを解き明かしていくのが本書『眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く』です。

いやあそれにしても燃えますよ、燃えますよね? 「爆発的な進化」とか、そもそも五億四三〇〇万年前に「一斉に」動物の形態が変わるんです。とても尋常な自体ではない。事実、カンブリア紀でいったい何が起こったのかというのはこれまでにも盛んに議論し、仮説がいくつもたてられてきたそうです。しかしどの仮設にも協力な反証が存在する。

これに明快な回答を与えたのです。それも気がついてみれば「あ、なるほど」と誰もが納得してしまうような形で。このわかりやすさは諸刃の剣でもある。あまりにも重要な発見なのだが、一瞬で理解できてしまう為にその凄さが伝わらない。

といって、本書はその凄さを理解させようと冗長ともいえる圧倒的なぐだぐだとした説明が続く。著者の処女作ということもあるだろうが、説明が下手すぎる。伝えようという意志は伝わってくるのだが、回り道が多く重要な部分がむしろぼやけてしまっている。本書に唯一欠点があるとしたらこの冗長さだろう。

だから先に結論を書いてしまおう。2006年に出た本だし、まあいいでしょうという楽観的なひらきなおりもあるし、僕自身結論を知ってそのあまりの凄さに「ええええ」とのけぞって読み始めたから、これを読んでいる人にも同じような驚きを期待したい。

カンブリア紀第進化の原因となったのは、ずばりタイトルにもあるとおり「眼」である。「眼」が生まれたことにより、生物の大進化が始まった。最初に眼を持った生物は三葉虫である。形だけみるとポケモンコクーンみたいなやつ。

「最初に眼を持つ」という言葉の重要性がわかるだろうか。みんな目隠しして仲良く生活しているところに、一人だけ目隠しをしていない快楽殺人鬼か盗人だかなんでもいいけどそんなものを放り込んだらどうなるか想像して欲しい。あっという間に金品は全部なくなり人間はいなくなるだろう。それと同じことが起こった。

実際、三葉虫が眼を持つ前の生物世界は平和的世界だったようだ。捕食者といえばクラゲとかイソギンチャクみたいな、ただよったり陣地をはったり、適当にぶつかったらぶつかったもんを喰うみたいな受動的捕食者しかいなかった。

さらに悲惨なことに目が見えない世界の住人である生物たちは、やわらかかった。めったに食われないのだから、体を硬く進化させるエネルギーなどもったいないのだ。カンブリア紀以前の動物はみなぐにょぐにょだったりぷにぷにだった。

そんな状況で三葉虫以外の眼の見えないぶよぶよした生物は片っ端から食べられていった。時間スケール的に考えて何万年かずっと食べられ続けていたのだろう。恐ろしい時代である。この時代のぶよぶよした生物じゃなくて本当によかった。話はそこでは終わらず、眼の見えない生物たちも、自分たちの身を守る方法を模索し始めた。

方法は体を硬くするという形で現れる。体を硬い組織でおおったり、トゲを持つことができた種族が生き残り子孫を残せるようになった。体を硬くするのは無駄なエネルギーなどと言っていられなくなった。今まで当然だった「生き延びる為のルール」が、いっぺんに変質してしまったのだ。こうして生物は多様な殻をもつようになる。

カンブリア紀の爆発は、視覚が生まれたことによってもたらされた。視覚が生まれたことによって殻が生まれ、化石に残るようになった。もはや殻がない生物は生き残れなかったから、すべての生物は一斉に進化したのだ。

一気にいちばん面白い部分を説明してしまった。いやはや、考えてみればすっごく当たり前のこと。でも当たり前のことに誰よりも最初に気がつくのは当たり前のことではない。それは当たり前なのに、誰にも気づかれていない奇跡的なことなのだ。本書に奇跡を見た。素晴らしい!(2006年の本だから今この説がひっくり返されてたら笑うしかない)

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く