冲方丁先生の最新作。だが、過去ばらばらに書かれた短篇を集めて出した短篇集であって、「今」の冲方丁を知ることができる作品ではない。短編は全7篇収録されていて、あの天地明察の原型となった短編や、冲方丁自身を主人公にしたかのような短編があったり、バラエティに富んでいて冲方丁の幅の広さを知ることは出来る。
しかしこの『OUT OF CONTROL』というタイトルは、冲方丁作品をよく表しているよな、と思うのである。結構なイケメンで、天地明察なんていうしっかりと抑制のきいた文章と構成で名作を出しておきながら、方や同じ人間が『マルドゥック・ヴェロシティ』や『マルドゥック・スクランブル』のような世界観を持っているのである。
シュピーゲルシリーズが実は冲方丁作品の中で僕が今一番好きなのだけど、あれだって可愛い絵柄に包まれた中は政治闘争や金や人間のどす黒さといった点では他の作品と比較しても遜色ない。何故『OUT OF CONTROL』が冲方作品を表しているのかと思えば、常に彼の書くものは自分に制御できない何かを制御しようとする為の物であったからだ。
詳しくは書かないが、冲方丁の作品群を読んでくればその暴走っぷりと、それを文章に落としこむことで制御しようとする葛藤が見えるような気がする。本作に収録されている中でも特に自伝色の濃い『スタンド・アウト』(海外で生活していて、日本に帰ってきたのだが英語と日本語の狭間で定まらずに揺れている、10代の未成熟な精神状態が書かれる)が最初に配置されているのも、かなり意図的なものだろう。
『スタンド・アウト』では書くことが物事を誇張することであり、それは一般的な意味とは違ってそぎ落とすということであり、小説を書くこと=揺れる自分自身と何もかもを傷つけてしまいそうな状態との格闘であったという文章があるが、まさに冲方丁がやってきたことというのは書くこと=コントロールできない状況での格闘であったのではないかと思う。
いまもっとも新作が楽しみな作家だ。『OUT OF CONTROL』を読んで次回作を待つべし。
- 作者: 冲方丁
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/07/20
- メディア: 文庫
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