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インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

インターフェースデザインの心理学というタイトルから想像されるホームページやツールの具体的な制作論かとおもいきや、その中身は人の脳を分析して理解できるパターン認識の仕方や、『人は本来怠惰な生き物である』とか『近道は簡単に見つかるときしかしない』というような純粋に心理学的な指針が多くて、面白かったです。反対に実用的なすぐ反映させるような知見を、といった観点から読むと抽象的にすぎるかもしれません。

目次

1章 人はどう見るのか
001 目が受け取る情報と脳が私たちに伝える情報は微妙に違う
002 対象の「あらまし」をつかむのは中心視野より周辺視野の役目
003 人はパターン認識で物を識別する
004 顔認識専門の脳領域がある
005 物はやや上から斜めに見た形で思い浮かべる
ほか

2章 人はどう読むのか
013 大文字がもともと読みにくいものであるという説は誤りである
014 読むことと理解することは同じではない
015 パターン認識のおかげでフォントが異なっても同じ文字だと認識できる
016 文字の大きさは理解度を左右する
017 コンピュータの画面上のものは紙に書かれたものより読みにくい
ほか

3章 人はどう記憶するのか
019 ワーキングメモリの限界
020 一度に覚えられるのは4つだけ
021 情報を覚えておくには使うことが必要
022 情報は思い出すより認識するほうが簡単
023 記憶は知的資源を大量に消費する
ほか

4章 人はどう考えるのか
027 情報は少ないほどきちんと処理される
028 心的な処理には難しいものとやさしいものがある
029 人は30%の時間はぼんやりしている
030 自信がない人ほど自分の考えを主張する
031 人はシステムを使うときメンタルモデルを作る
ほか

5章 人はどう注目するのか
040 注意力は選択的に働く
041 情報は取捨選択される
042 熟練の技は無意識に駆使できる
043 ある事態に対する注意力は頻発が予想されるか否かで決まる
044 注意力の持続時間は10分が限度である
ほか

6章 人はどうすればヤル気になるのか
050 目標に近づくほど「ヤル気」が出る
051 報酬に変化があるほうが強力
052 ドーパミンが情報探索中毒を招く
053 人は予測ができないと探索を続ける
054 「内的報酬」のほうが「外的報酬」よりもヤル気が出る
ほか

7章 人は社会的な動物である
063 「強い絆」を有する集団の規模の上限は150人
064 人には生来模倣と共感の能力が備わっている
065 「同じ釜の飯を食った仲間」の絆は強い
066 オンラインでの交流においては社会的なルールの遵守を期待する
067 嘘の度合いは伝達手段によって変わる
ほか

8章 人はどう感じるのか
072 7つの基本的な感情は万国共通
073 感情と筋肉の動きは深く結びついている
074 データより物語のほうが説得力がある
075 匂いは感情や記憶を呼び起こす
076 人は思いがけないことを楽しむようプログラムされている
ほか

9章 間違えない人はいない
085 人間にノーミスはあり得ないし問題ゼロの製品も存在しない
086 ストレスを感じているときには間違いを犯しやすい
087 エラーはすべてが悪いとはかぎらない
088 エラーのタイプは予測できる
089 エラーの対処法はさまざま

10章 人はどう決断するのか
090 無意識のレベルでの決断
091 まず無意識が気づく
(中略)
099 他人は自分より影響を受けやすいと考える
100 目の前にある品物のほうが高値に

章タイトルごとに10個の指針があり、全10章全100指針が収められています。ざっとみてもらえればわかるように、「人はそもそもどうやって物を感じ、みているのか」といった本質的な部分をそれぞれ焦点を絞って解説していきます。それぞれ人の認識論について最新の知見がコンパクトに反映されていて仮にユーザインタフェースに興味がなくても(まあそしたら買わないだろうけど)関係なく面白いと思います。

こうやって脳の認識論を読んでいて面白いのが、普段から僕達が自律的に判断していると考えている多くのことが脳によってほとんど自動的に取捨選択されていて、自分で決めていることなどほんの少しだということ。そして自動で判断している脳はときにありえないようなエラーをしでかすこともあるということ。

たとえば有名な実験に「見えないゴリラの実験」があります。この実験では被験者の人達に、バスケットボールの試合をみて、その試合中に行われたパスの回数を数えるように伝えます。しかしそのバスケの試合には「ゴリラの着ぐるみを着た女子学生」が混じってバスケをしているのですが、パスの回数を数えるように支持された被験者の半数はゴリラの着ぐるみをきた女子学生に気づかなかったそうです。

これでわかるのは僕たちがどこか一点に注意を向けると、その他の部分は眼に入っているにも関わらず、以外なほど意識にのぼらないということ。そうした「人間の認識とはなんぞや」「どのようなパターンを持っているのか」といった定石を知っていれば、人の眼を惹きつけるデザインといったものもわかるようになるでしょう。

長い行のほうが速く読めるが一飯には短い行のほうが好まれる
余談的に本書の中で面白かったトピックを紹介します。18個目の方針『長い行のほうが速く読めるが一般には短い行のほうが好まれる』。

僕はブログで結構長いこと文章を書いているので、「横の文字数はどれぐらいの数が一番読みやすいか」といったことを自分の勘を頼りに考えて決めていた時期(結局35〜40文字が一番良いという結論に至った)もあったのですけど、本書ではそのことを検証した研究を紹介してくれています。ちなみに今のブログデザインは横幅の長さが気に入って決めました。

研究を行ったのはメアリー・ダイソンということで、行の長さについての研究を行い、どのくらいの長さが好まれるかを推定しました。それによれば、英語の文章の場合、1行100文字が画面上で読む速さの点では最適ですが、一般には短いか中程度(1行あたり45〜72文字)の長さが「好まれる」ことが明らかになったそうです。

長い行のほうが速く読めるのはなぜかといえば、行末に達するごとに目の動きが中断され、短いとこの中段の発生回数が多くなるためです。そのため長い行のほうが速く読めるようです。もし仮に読まれる速度を重視した文章を載せたいのならば、一行を長くし、好感度を高めたいのならば短くしたほうがいいということです。

しかし実験によれば「どちらが好みか」と答えると行が短いほうだ、と答えるのですが、「どちらが速く読めるか」と聞いてもやっぱり「行が短いほうだ」と答えるそうです。結局「実測的に速く読める」といっても、「本人が速く読めている」と思わなければ意味が無いので、基本的には行は短くしたほうがいいんでしょうね。

ちなみに1行あたり45〜72というのは日本語でいう30〜50ぐらいなので、僕の実感ベースによる35〜40文字っていうのもあながち悪くないんじゃないかなーと思って悦にひたりました。

インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

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