本作は最初にこれから語られるショッピングモールと都市の関係について概観を示し、2章と3章でショッピングモールの起原とその後の歴史、4章で現在のショッピングモールを示すというオーソドックスな構成であまり突飛なところもありませんが、堅実で言っていることがよくわかります。それにしてもショッピングモールによって構築される現代の都市を捉える、という視点がまず面白いですね。
都市とショッピングモールは似ていると言われてもはぁ? としか思わなかったんですけど、読み終えてみればたしかに納得ができる。それは簡単に言ってしまえば次のような理屈で展開していきます。1.都市の公共機能が民間サービスに置き換えられていく。すなわち都市の民営化である。⇒2.都心は土地代が高く、都市の開発は経済合理性や競争原理でもって置き換えられていく。
これは本書で挙げられている例で言えば、病院の中にあるカフェとか、サービスエリアの民営化だとか、東京駅(再開発にともなってショッピングモール化)、羽田国際ターミナル(国際線を始めたことによる、日本文化の入り口として表現されるテーマパーク化)、東京スカイツリー(東京スカイツリーもショッピングモールの一部)などなどが現代都市におけるショッピングモール化として変わっていっています。
当然経済合理性や競争原理の要請によってショッピングモール化が進んでいるという論調なので、なぜショッピングモール化なのかといった理由もあります。まず1点目に2000年の時点で467万人だった外国人観光客数は2010年には861万人までに増えているっていう事実がある。そしてその観光客達は実はショッピングモールを目指してきていると言います。
ショッピングモールを本当に目指しているのか?? っていうのは、なんか香港で売られている2010年度版の東京の旅行ガイド本には富士山やらなんやらの通常想定されるような観光地ではなく、ショッピングモールが大きく載ってるんだよ〜って話で根拠が薄いような気がする。海外の観光地も軒並みショッピングモール化している〜というが観たことがないからわからない。
しかし確かに僕も仕事場が新宿なのでこの暑い中えっちらおっちらあのコンクリートジャングルの中を歩いているんですが、外国人観光客がいっぱいいて「この人達いったいなにが目当てて新宿にいるんだろうな〜何が楽しくて日本に来るんだろうな〜〜」とよく疑問に思っていたのですが、そうか彼ら彼女等はショッピングモールでショッピングを楽しんでいたのかと考えれば筋は通る。
筋は通るかもしれないけどよくわからないのは「なぜ人々は海外にいってまでショッピングモールで消費をしなければいけないのだろう」ってところです。まあ資本主義社会では消費は誰でも平等に楽しめる娯楽ですから、消費をメインに据えていれば観光客相手には最大公約数的に機能するっていうことなのかな。あまり明確には書いていませんが、そういうことだと思います。
ショッピングモールの良い点としてあげられる2点目について。これはモールの起原にまでさかのぼります。最も最初にショッピングモールを考えたのは建築家のグルーエンで、彼はかつてのダウンタウンが持っていたような公共空間をつくろうと考えたのでした。
車を気にせずゆったり歩ける歩道、家族でくつろげるベンチ、公園、そういった失われた人々の交流を取り戻すのがショッピングモールの起源的な目的であったといいます。安全、安心、家族で楽しめ、誰もが消費という共通の娯楽を楽しめる。それらは高い土地代をペイしなければならない経済的合理性からきていて、だからこそ「現代の」都市を考えるためにはショッピングモールや消費といったことを考えなければならないのでしょう。
なかなかおもしろかったです。都市っていうのは基本的にすべてが人工によって作られたもので、つまりは人間の脳を物質化したものであるわけです。都市について考えるっていうのはそのまま人間の社会性とか、思考について考えることとイコールで結べるはずなんですよね。都市は今結構面白いテーマだと思っています。
都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代 (oneテーマ21)
- 作者: 速水健朗
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/08/10
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