基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

限界集落の真実: 過疎の村は消えるか?

うーん結局なにが言いたいのかよくわからない本だったなあ。もちろん言っていることはひとつひとつ理解できるんだけど。実感が何一つとしてわかない。東京に産まれて東京で成長して今も東京にいるから、周辺とか村がどうたらっていう内容がまったくもってファンタジーのように聞こえる……こととはまた別の次元で、著者の言っていることはかなり一面的な物の見方であると思う。

本書『限界集落の真実: 過疎の村は消えるか?』は、タイトル通り限界集落を取材し、分析した真実を伝える本。限界集落は65歳以上の高齢者が集落の半数を超えて維持が困難に置かれている状況の集落のことを指す。しかし著者が取材に行った限りでは、意外とみんな元気で、日々わりとのんびり生活しており、マスコミの報道などからイメージするような「じじばばだらけで日々の生活もままならない。絶望しかない」状況とは程遠いという。

まあたしかに65歳を超えても元気なじじばばはいっぱいいるからね。それにじじばばだけで暮らしているわけでもないし。というわけで本書では「高齢者の比率自体は、そこまで問題ではない」という。むしろ問題は高齢化の裏側にある少子化こそが問題なのだ。これもまた考えてみれば当然で、ただでさえ子どもの出生率がガシガシ下がっていて、しかもどんどん都会に流出していっているのだ。

だから集落から子どもが消える。子どもが消えるとじじばばだけになる。今はまだわりと元気そうなじじばばでも、本当にじじばばだけになって80とか90になったらさすがにうまくやっていけないだろう。後進にたいして継承したくても、後進自体がいなかったら何をどうしようが集落は最終的に滅びる。

で、僕などは「それが何の問題なんだろう」と疑問に思う。別にいいじゃん。餓死して死ぬわけでもないし、自発的に出ていくんだったら。本書のテーマはふるさとはこれまでと同様に継承していけるだろうかというが無理に決まってんじゃん。2100年には日本の人口は4459万人にまで減ると予測されているんだよ。

負の予言は希望が宿る余地がないから本来安定していた状況が悪い方にいっちゃう可能性があるみたいなこと書いてあるけどいや、もちろんそういう側面はあるけど、「だから負の予言はしないようにしよう!」って話にゃならんわけで、そういう問題じゃない。

おまけに何か勘違いしているように「効率の悪い地域は消えてもらった方がいい」という議論を経済原理主義者の意見の代表みたいに取り上げて反論しているんだけど、経済原理主義者はそんなこと言わないよ。著者が経済が嫌いなのはひしひしと伝わってくるからわかるけどさ。

経済原理主義者は「放っとけ」っていうだけだよ。残りたければ残ればいいし、出ていきたければ出ていけばいい。戻ってきたいなら勝手に戻ってくればいい。自分たちの場所が好きで、人で賑やかにしたいならそうできるようがんばればいい。そうすると「消えるべき集落は消える」し「まだ地力がある集落は残る」っていうだけの話でさ。

「効率の悪い地域は消えてもらった方がいい」なんて議論以前の問題でしょ。著者が経済についてわかっているのかわかっていないのかよくわからなかったけど経済=効率性=諸悪の根源のような図で最初から最後まで展開するので正直げんなりした。むらや集落の消滅を当然と人々が思うようになっているのを経済のせいにするんだもんなあ。

あと無根拠な大都市批判がすごくて読んでいてびっくりしてしまった。仲間と集い集団組織をつくるのに慣れていないとか、経済中心の考え方から離れられないとか、うまみを吸い取るのが不器用とか、自分のことだけで手一杯で未来の見通しも明るくないとか。どれひとつとして根拠のない話で、集落の真実を暴く前に都会でちゃんと生活してみたらどうだろうか。いや、首都大学東京の准教授だから都会で生活してこれなのか……。

まあいいやどうでも。しかしまあ限界集落については「放っとけ」ですべてが解決するわけではもちろんなくて、問題は山積みなのはいうまでもない。「残りたいけど残れない」っていうおじーさんおばーさんがいたらかわいそうだからなんとかしてあげたい。その方法についてはちょっとだけ書かれているけど大したもんじゃない。ただ課題は示される。

おもしろかった視点も3つぐらいはある。1つは当然「限界集落とかいうけど意外とみんな元気でエンジョイしてるよ」という視点と、そうはいっても子どもがいないとどうにもならないよねっていう現実の問題。2つめがそこから関連して「問題なのは高齢化ではなく、少子化である」っていう点。それはたしかにそうだ。

社会を動かす起点は小さなむらや町の小さな会合なのだ、小さな会合からはじめて大きな地域社会全体へと影響を及ぼしていく力を大都市コミュニティの居住者は持っていないと書かれていて、そこにあやうく納得しかけたけど意味不明である。だいたい全体を通して都市の分析なんて何一つないんだから無茶だ。

でも高齢化が進んでいるむらや集落で、村おこし、あるいは人が戻ってくる仕組みを作れたとしたらそれを大きな国単位の話に広げていけるかもしれない。そうした周縁からの視点は、たしかに重要だと思った。これがおもしろかった視点の3つめだ。だから限界集落の取り組みに注目する価値はあるんだと思う。

そうはいっても本書はそのあたりをうまく結合できていたとは思えないが。結局、日本はむらや町の集積でできたものであって、都会の問題点を地域から捉え直す! とかむらや集落を継承し再生する! とか御大層なテーマはいっぱいあるけどどれも中途半端で微妙な本だなあ、というのが総評。

限界集落の真実: 過疎の村は消えるか? (ちくま新書)

限界集落の真実: 過疎の村は消えるか? (ちくま新書)