基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

環世界が合わない同士は合わせづらいものよ。『人間仮免中』

統合失調症を煩いながら25歳年上の彼氏と生きたり死にかけたりしながら日々を生きる実録日常漫画。日常とはいえ大きなイベントを扱っていて、一巻でいちおうまとまっている。まあとにかく、おもしろかった。絵が中学生ぐらいの子が描いたような感じだし、どんな話かさわりだけみてみようと思って読み始めたら最後までそこからとまらずに読みきってしまう。

実話的な出来事を多く扱っているとはいえ、そして絵はとてもへたくそだとはいえ、プロットにしろ絵にしろそこには読ませられるテクニックがある。ひとつのフィクション、漫画として面白かったのだ。だからこそなんだかよくしらないがいろんなランキングに載っているのだと思う。

人間仮免中というタイトルは読み終えてみるととてもうまいタイトルだ。作中著者の卯月妙子さんは何度も妄想に襲われたり死にたくなったり中傷にさらされる妄想に襲われたり彼氏と喧嘩したりオマンコに刺青を彫りにいったり襲われる妄想に襲われたりする。

悪口を言われる妄想だって、妄想だとわかっているなら無視すればいいでしょ、と思ってしまうが妄想はたぶんそういうものではない。妄想だとわかっていても存在したら存在してしまうのだ。誰にとってもまったく同じ「現実」なんてなく、誰もが自分が構築した世界に生きている。

たとえばモンシロチョウには紫外線が見えているが、人間にはみえない。とすればモンシロチョウが見ている世界と人間がみている世界はまったく違ったものになるだろう。「実際にあるか、どうか」が問題なのではなく「主観が何を感じるのか」が僕たちの世界を形作っている。

漫画で描かれているまったく違った世界認識で生きる卯月妙子さんはまるで人間の皮をかぶったまったく別の種族のように見える。モンシロチョウが人間に見えない紫外線をみているように、でもかろうじて人間との接点をたもっている知性をもった別の惑星の種族なのだと思って読んだ。

その人間のような何かは自分のみている世界を人間にわかるように絵にして表現し、翻訳してくれる。あるいは、たまに人間の世界認識を取り戻したり、人外の世界認識になったり、ふらふら揺れている。本人からすればたまったものではないだろうが、読んでいる僕としてはそのズレが、もうとんでもなくおもしろかった。

みんなそれぞれ自分の世界認識で生きているのだ。

人間仮免中

人間仮免中