たいへんおもしろく読みました。
「メディアとは何か」といった基本的な問題からはじまり、メディアの分類、現代の情報環境についての抽象化した仕分け、デマが飛ぶと何が問題なのか、メディアのブランド価値とは何なのか、参加性と多様性のメディアの違いとは、と話題が多岐にわたっていく。
「メディア」という一語に集約されてなんとなくわかった気になっているものの、その実説明しろと言われるとうまくできない曖昧模糊とした感じがとぎほぐされわかりやすく並び替えられていくのが気持ちが良い。
評価経済社会なるものが話題になることも大きい昨今。月並みな言い方だけれども、誰もが情報の送り手に回れる(というよりも回らざるをえない)状況である今、情報の効果的な伝達を目的とした「メディア力」を高めておく必要があるのは自明のことのように思えます。で、その力っていうのは自分たち以外の相手も行使してくる力なわけです。
HUNTERXHUNTERという漫画で念なる特殊能力を使う敵キャラクターが、主人公であるゴンにたいして「こっから先はこの能力を使えることが必須だぜ」といって壁となって立ちふさがるシーンが有るのですが(座っていたような気もするが)まさにそんな感じで、メディア力が弱いと簡単に騙される、もしくは情報の奔流の中でただ翻弄されるだけになってしまうやもしれません。
おもしろかったのはいくつかあるけれど、既存のメディアについての分類は特にめうろだった(目からうろこが落ちるの略)。本書ではそれをメディアの3次元マトリックスと言っている。リニア↔ノンリニア 参加性↔権威性 フロー↔ストック がそれぞれ↔でつながれていて情報を発信していく上でその情報がリニアなのかフローなのか、参加性なのか権威性なのかを意識しておくと便利。
たとえばフロー↔ストックでいえば、Wikipediaは完全にストック型のコンテンツ。つまりはどんどん溜まっていくものになります。ブログや本ももストック型ですね。一方Twitterのように常に流れていくものがフロー型、ニュースサイト、メルマガなどもこっちに入る形ですね。これは「片方が立てば片方が立たず」という問題ではなく。
Twitterならまとめてストック型のコンテンツに変換するToggetterがあるし、どちらかといえばストック型のブログで速報性のある時事ネタに反応する記事を書いてもいいわけです。言語能力の高低は、僕は物事を抽象化するレベルをどれだけ自由自在に上げ下げできるかだと思っていますが、情報を発信する人間にとってはこの↔間でどれだけ自由に動かせるかが重要なのかもしれません。
たとえばTwitterのような極端なフロー型のメディアがあって、そこにToggetterのようなストック型のメディアがまだないとしたら、「しめしめ、ここには誰も手を出してない空白があるぞ」が気がつけるわけで、いかに情報の階層を上げ下げして多くの人に届けるのかの前提として知っていると面白いところです。
参加性と権威性について。本書ではミシュランと食べログを例にとって説明しており、わかりやすい。たとえばお偉いさんを店に連れて行く時に「ここは食べログで☆4だったんですよ〜」といったら若干微妙な気がしますが「ミシュランで三ツ星なんです」といったら「おお、ありがてえ」と思うのではないでしょうかとかそんな話。
そのどこに違いがあるのかといえばミシュランは責任をおっているわけですね。格付けに失敗したら自分たちがダメージを受けるわけで。それだけのコストをかけている。食べログはみんな好き勝手に書いているわけであって、質が担保されているわけではありません。たとえ行ってまずかったとしても誰にも文句が言えない。
で、最後にリニアとノンリニアです。時間軸のコントロールが行われているか、否かという問題。小説や映画なら頭から最後まで読みますよね。一方辞書は普通頭から読まないのでノンリニアなわけです。細切れの時間の中で出来るものもノンリニアに分類されます(ソーシャルゲームとか)。
現代人の細切れ化した時間の中ではノンリニアなコンテンツが好まれるようになっているといえるでしょうね。市場からしてもその流れは明らかで、こうしたことを意識していると送り手側としては大変有利でしょう。たとえば小説家の森博嗣さんは自身の小説が明らかに文字数が少なければ少ないほど売れる傾向にあるとして、段々とシリーズ作品の文字数を減らしていきました。
とまあほんの一部分だけの紹介になりましたけど、どうでしょう。このあと情報発信する際のブランド化の必要性についてなども書かれていて、情報発信せざるを得ない現代人にとっては正直必読といってもいいぐらいの内容だと思います。
「個性を豊かに!」なんて言わなくても今では誰もがばらばらで、こんな状況下では自身の価値なんてものは自分で演出してかなきゃいけないんですよね。
めんどいけど、ひつよう。
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