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階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現

アメリカはもとより富裕層と貧困層があったが、現代では行動様式や価値観といった「核」になるところで両者の間に階級格差がうまれている。長い間アメリカ社会の動向は人種と民族の観点から語られてきたという。たとえば白人に比べた黒人の貧困率、白人に比べたヒスパニック系の大学進学率、しかしよくよくみてみると白人の間にも新たな視点から見てくる階級格差が存在しているのであるというのが本書の主な内容。

データからみえてくる格差とか、統計データによるここ数十年で変わってきたアメリカ国民の嗜好というのは非常に興味深い。著者は話をわかりやすくするために「大卒か大学院卒、地位の高い専門職か経営管理職に付いている人々」をベルモント、「高卒以下でブルーカラー職、中級・下級サービス職、あるいは下級ホワイトカラー職に付いている人々」をフィッシュタウンとし、架空で分類し分析を行なっている。*1

たとえば結婚でいえば1960年代においてベルモントは95%が既婚、フィッシュタウンは85%あたりが既婚率の割合だったが、2010年の統計ではベルモントが85%、フィッシュタウンが50%以下と大きく(フィッシュタウンが)下がっている。母親が40歳の時に実父母を暮らしていた子どもの割合も、ベルモントは2010年でもほとんど下がらず90%程度を維持しているがフィッシュタウンは30%付近である。

世帯主あるいはその配偶者が前の週に40時間以上働いた世帯もフィッシュタウンは2010年の時点で65%、ベルモントは85%と大きくさがついている。この他にも犯罪率、信仰率、自己申告による幸福度すべてにおいてベルモントはだいたい1960年代から減少を続けているものの、その減少率はゆるやかであり、反対にフィッシュタウンは減少率が大きい。

かつて5%程度だった非労働力(働く意思、能力を持たないもの)率は2010年では15%程度になっている。ううむ。結婚、仕事への満足度、信仰の度合い、そしてコミュニティへの参加といった要素は自己報告の幸福度と直接的で強い関係がみられる。ようは結婚していて仕事への満足度が高くて信仰を持っておりコミュニティへの参加が積極的な人間は総じて自己申告の幸福度が高いのである。

そしてさらに残念なことにこうした格差──ベルモントとフィッシュタウンの住人は、なかなか交わることがない。人より飛び抜けて頭のいい人間は周りの人間の会話にあわせることはできても、自分のしたい話をすることはできず、孤独を感じるだろう。年収が変わってくることから居住地も階級で分離される。

そうして一流大学の人間は一流大学の人間と結婚する。あるいは大学を卒業した跡に入った一流企業で、同じく上流階級の流れを組んだ同じような知的階層の人間と結婚したり付き合うようになる。そして事実頭のいい(本書では頭の良さとしての指標はIQが軸になっているのかな。たしか。)人間同士から生まれてくる子どもは平均的に頭がいい。今では両親の学歴によって子どものIQの期待値まで出せるのである。*2

とくれば容易く「いまのアメリカ人の中でも、フィッシュタウン層は総じてどんどん不幸になっている」という結論が導き出せてしまう(実際自己申告の幸福度はどんどん低くなっている)。が、ことはそう簡単ではないと思われる。自動化とアウトソージング、合法違法問わず大量に存在するようになった移民労働者といった観点が完全に抜け落ちているしその結果「何が本当の問題なのか」を本書だけで判断するわけにはいかないだろう。

社会学者というやつは統計データを使って何らかの有意な相関をなんとかして見つけ出そうとするが、どうにもそのほとんどがあまり役に立っていないか、信用できないものである。本書にも統計データについては非常に詳細な補足がついてくるがそれでも……。たとえば著者は10万人あたりの個人破産申請がこの数十年間で四倍になったことをあげて、アメリカ人から誠実さが失われつつあるとしか思えない、といってみせるのだが何でそんな結論が出てくるのかさっぱり理解できない。

そもそもが原点たるアメリカの美徳(正直さ、勤勉、結婚、信仰)こそが重要なのだという観点を持っているのは明らかで、そうした自身の主張に解釈やデータの取り方にまで影響を受けているようにみえる。結論に関しても具体的なものはなく、所得の再分配に否定的で福祉国家美徳を傷つけるといって、じゃあ何を言うのかといえば新上流階級の人々は自分たちの生き方をほかの人々に勧めろ、わたしたち全員の自覚が必要であるというばかりで正直アホくさい。

データはおもしろいが著者の言葉に耳を傾ける意味はあまりないように思う。

階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現

階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現

*1:ベルモントはだいたい全米国人の20%を代表し、フィッシュタウンは30%を代表している計算になる。また基本的に30歳以上50歳未満のデータになる。

*2:僕はこのIQという判定制度そのものに懐疑的だが。