三島浩司さんによる小説新作の文庫。相変わらず不思議な世界観だ。突如現れる土の塊、その中に取り込まれる一人の人間、そこから出てくる不忍、こいつらは、人の「動機」を殺し、その現象はクビキと呼ばれる──と、え、え、それどういうこと、その発想はどこから出てきたんだろう、と思うような世界観……と単語だと思う。単に僕が日本神話にあまり明るくないからそう感じるだけかもしれないけれど。
当然そんな動機を殺すような不可思議存在がいたら市中の平和が保てないのでこれを処理する組織が存在する。それが『高天原探題』で、物語の主人公はそこにある目的のために赴任してきた一人の青年である。この不忍の倒し方がまたヘンテコで、銃器や刃物で倒すわけではなく、基本的に殴って殺すのだ。しかも殺意をもって直視すると動機が殺されて倒せなくなるので、みんなが代わりばんこにえいえいおー! と、順繰り順繰りにボコボコ殴っていく。
なんとも平和的で、戦法は古臭く読んでいてその光景を想像するととてもアホらしくみえるのだが、一方でその光景がなんとも楽しい。もっとも被害の大きさなどを考えるととてもアホらしいといえるような状況ではないんだけど。三島浩司さんの書くそうした不可思議な設定から成り立つ世界と、どこかしらみんなおかしい、ズレた人間間のやりとりが好きなんだよなあ。うまく説明できないのだが、とても好きな作品だったので書いておきました。
- 作者: 三島浩司
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/08/23
- メディア: 文庫
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