「なぜ飛行機は飛ぶのか」とそんなあまりにも単純な問いも、答えるとなるとずいぶん難しい。しかしそこには理屈がある。飛行機をつくりあげた人たちはみなその理屈に沿って飛行機を創りあげたのだ。翼の形にも理屈があるし、重量にも理屈があるし、それを動かすエンジンにも理屈がある。だから当然、飛行機を創りあげる歴史は飛行機が飛ぶ理屈をひとつひとつ探り当てる歴史でもある。
この本で私は,揚力の問題を手はじめに、「エンジンはどのように開発されたのか」、「飛行機はいつから金属製に変わったのか」、「ジェット・エンジンはどのように生まれたのか」、といった疑問に対して,飛行機の発展を歴史的な経緯に沿ってまとめてみたいと考えた。大空を自由に飛びたいとする人類のロマンが、技術と科学の発展によって達成されるさまが伝えられればと思った。教科書では1行で片づけられる理論にも、便利に利用している技術にも、それが完成するまでには人間のドラマがあった、その過程を知ることは、新しい理論や技術を作り出すヒントになるはずである。
ああ、しかし改めてこういう「工学」の本を読むと、人間ってすごいなあと思わずにはいられない。今身の回りに存在しているありとあらゆるものは、誰かが考えだして創りあげたものなのだし、そこで動いている一つ一つの機構はそれはもうよく出来ている。エンジンの仕組みとか、はじめてみたときはやっぱり「なんだこれすごい、というかこんなものを発想したことが凄いな」と驚いたものだ。
もっと早くこの本や、別の工学分野についての本に出会っていたら確実に生き方が変わっていただろうなと思うけれど、それも今の価値観があってこそだろう。今は今で気に入っているのだから考えても詮無いことだった。特に戦闘機の形は一つの合理化の極地だ。無駄が省かれ、最適な効果を達成するようにギリギリまで無駄が削ぎ落とされている。
本書には飛行機や原理を説明した図や写真が大量に出てくるが、戦闘機はやっぱり美しいなあ、それがたとえ人を殺す道具であっても。「その形である理屈」を知った上でみると、今まで以上にそのことがよくわかる。
本書では揚力とはなんなのか、という問いを手始めにエンジンの原理、プロペラと翼の理論、空気の粘性の発見、そこから導き出される最適な翼平面と、飛ぶために必要なエネルギーの量はいくらなのかといった「飛行機が本当に飛ぶまでに必要な一つ一つの課題」を解決していく様が語られていく。
これは本当にドラマチックで、どんな途方もない夢でも(ライト兄弟が飛行を成功させる9日前にニューヨーク・タイムズはこの先1000万年は人間が飛行機を作ることはできないだろうと言った)、課題を解決しさえすれば達成できるのだという、ひとつのエンジニアロマンだ。
- 作者: 鈴木真二
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/12/10
- メディア: 文庫
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