基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

未来福音 - 劇場版 空の境界

本当に素晴らしかった。観終わった後、ずっと、とりつかれたようにこの作品について考え続けているもの。思い返せば七章の完結編をみたときもそうだった。もう何も手につかなくなってしまう。

テアトル新宿まで朝早起きしてチケットが売り切れていないかどきどきしながら買いに走ったのも今は昔、公開館も拡張され徒歩10分のところにある映画館で観られるようになってしまった。もう、感慨深くて感慨深くて……客観的な評価なんて、全然無理、好きすぎる。原作を超えるメディアミックスなんてほぼないと考えている僕ですけれども、この空の境界シリーズは原作に並んでいるかも(単一線上の比較ができないぐらい両方共それぞれの要素で好きだ)。未来福音の同人誌を初めて読んだ時(もう5年前だぞ、マジで!)が今すごく懐かしいです。⇒空の境界 未来福音/奈須きのこ - 基本読書 

丁寧に丁寧に、武内崇さんの3編の漫画と、未来福音を映像化されています。漫画の方はキャラクタの日常的なところを深めていく話ですね。未来福音は未来視の能力を持った人間と式たちとの関わりを書いています。まあ、どれもこじんまりとした話ですよ。でもね、歩いたり喋ったり寝転がってごろごろしたり、ご飯を食べたりといった日常的な動作が多くて素敵でした。もちろんアクションも最高だ。素晴らしい。素晴らしい。

三タイプの未来視への物語。未来が見えことへの三人それぞれの人生への向き合い方、ケリの付け方といったものがあります。プロットは原作小説の時にすでに知っていたけれど、映像として表現されると何よりも驚くのはその空気というか、雰囲気ですね。言葉にしづらいけれど。空の境界っていう物語自体を読んだのはもうずっと前なのに、ただの読者の自分でも、未だにずっと色褪せずに残っている。具体的なプロットも、世界観も、キャラクタも。

僕はずっとその理由がよくわからなかったけど、一言で言えば情報量のおかげだと思った。小説でしか表現できないトリックが使われていることもある。時系列をばらばらにしていることもある。そして何より奈須きのこがずっと保ち続けている世界観の中にある。単に印刷されている情報以上のものが含まれるように最大限こらされている。

だからわずか文庫三冊分の比較的こじんまりとしたシリーズにもかかわらず、その10倍以上の密度を持って僕の記憶に残っているのではないか。ただこれは何も空の境界だけに限った話ではなく、奈須きのこの世界観に共通した話ではあるけれど、奈須きのこさんの他の作品はほぼすべて(DDD、月の珊瑚などのちょろっとした作品を除く)ゲームなんですよね。

だから空の境界以上にそこでは「書き切られて」いる。あるいは月姫のようにその後の物語が暗示されている。小説という形態で、文庫三冊程度の容量で、奈須きのこさんが読者に最大限情報量を与えようとした結果がこの「書き切らない」小説版『空の境界』なんだと思う。あらゆる事象が匂わされたり、あるいは背後で多くのイベントが同時発生している。

その傾向は未来福音で顕著で、事件が起こっている時に別々の人間が別々の事件に遭遇して、しかもそれぞれの視点からその事件が語られるので時間にすればほんの僅かな物語でしかないのに、情報量が関わる人間の数だけ増えている。ただし小説として書かれるのはそのほんの一部で、あとはバックグラウンドを感じられる程度。

ずっと続いてほしいと思い、かといってずっと続けるわけにもいかないのがおもしろい物語の宿命です。未来福音はその切なさを振りきって、前に進んでいく「未来」へのケリのつけ方……というか未来の提示の物語なんだな、と改めて観て思ったり。終わらない物語はないが、終わったからといってそこで何もかも終了ではなく、未来に残るものもある。

そうした「切なさ」と「希望」と「これで、もうほんとに終わり」っていう抽象的な雰囲気が全編にわたって感じられる画面と台詞、キャラクタの造形でした。これは映画自体の設定というか、原作の設計のうまさです。キャラクタの造形やプロットが全部「未来」を暗示させるものになっていて、そういうところも情報量の多さを感じさせたり。

特典小説の終末録音がついていて、「おいおい、映画化があったから未来福音が出たのに、その未来福音が映画化されるときにまたこんなのが出るんじゃこれがまた映画化されるんじゃ……」と思ったら杞憂でしたね。まったく危なげなく、最高におもしろいのでとくに何もかきません。もうこの世界自体が好きすぎるのであらゆるネタバレをしたくない。空の境界という作品、そして奈須きのこという作家は僕の中ではずっとある位置を占め続けるでしょう。

空の境界(上) (講談社文庫)

空の境界(上) (講談社文庫)

空の境界(中) (講談社文庫)

空の境界(中) (講談社文庫)

空の境界(下) (講談社文庫)

空の境界(下) (講談社文庫)

空の境界 未来福音 (星海社文庫)

空の境界 未来福音 (星海社文庫)