基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

キヌ六 by 野村亮馬

『ベントラー・ベントラー』で名前を知った野村亮馬さんの新作。架空の歴史をたどった2001年が舞台でサイボーグ達が身体をバラバラに、ブチブチ引きちぎりながら殺しあうアクション漫画が『キヌ六』だ。基本このブログでは5巻以内に完結する漫画をメインに紹介しているが、これは二巻でつい先日に完結した。上下でなく二巻となると「打ち切りか」とすぐ心配してしまうこの世界は残念だが、最後の巻末解説によると全12話二巻完結は当初の予定通りだったようだ。確かに話し的にもわりとすっきり終わっており違和感はない。もっと読みたかったような気もするけれど、2巻の中にぎゅうぎゅう詰めでいろんな要素が詰め込まれており満足度は高い。

あらすじはシンプルなので簡単に説明しておこう。サイボーグの少女、六がヌードル屋でアルバイトをしているところに突然火星人類を名乗る少女キヌが転がり込んでくる。特別に生み出された人類であり撃たれても再生するわ、頑丈だわでまるで人類と違う構造をしている。ひとまず外見は人間と同様、かわいい少女だ(よかった)。キヌは謎の組織に追われてガンガン撃たれているのだが街中破壊しながら逃げ回っている。彼女の目標は生まれ故郷である(生まれてないけど)火星へと戻ること。ヌードル屋で働いているサイボーグ少女は単に人質としてその旅に付きあうことに成る。

この銃弾もはねかえしパワーも半端ないサイボーグ少女(ヌードル屋で働くにはオーバースペックだろ)と火星人類であるキヌが次第に打ち解けていくのがプロット1。火星に辿り着くまでの艱難辛苦がプロット2。火星と地球はは既に何十年も前に行き来が途絶えており、もうどうやっていったらいいのかわからないような状況である。キヌは謎の組織にかなりハードに追われているしで、キヌを生み出した組織、越冬隊と名乗る組織、火星人類を支援する組織が入り乱れていくが基本的には「キヌがなんとかして火星へ向かう物語」とだけ把握しておけばいいだろう。

キヌ六世界は現実とは全く異なる歴史をたどった架空の過去(2001年)であるので、まずその諸々の造形がおもしろい。車からバイク、電荷ブレードにトンボ形昆虫型の偵察ロボットにパワードスーツ、サイボーグ、なんか触手を自在にあやつるキモい改造人間となんでもござれだ。街の造形からして現代とは似ても似つかない、BLAME!めいた世界観が構築されていく。ただヘンテコな町並みが描かれるのではなく、細いパイプの上を歩いたりゴミゴミしたなかを走りぬけ破壊し時には落下していくのでパイプ丸出し建造物スキーにもたまらない(なんだそれ)。銃器はほとんど現実に存在する物ベースだとはいえサイボーグがつかうものだからヤケにゴツイものがどかどか出てくる。

あまり複雑な話はないのでページのほとんどはアクションに費やされる。サイボーグアクション物の醍醐味といえば人間だとどうしても不可能な動きの実現であったり、腕が吹っ飛んだり腹に穴が開いたり足が吹っ飛んだり首がねじ切れたり、そうした人体欠損を抱えながら人間がアクションを継続させていくところではなかろうか。生半可な銃だと身体にあたっても簡単に弾き飛ばしてしまうので近接戦闘に移行していく過程もいい。首がぶちぶちとネジ切れる様などまったくもって興奮するし、腕がじゃかじゃか吹き飛んで腹に穴があくなんてとても楽しいじゃないか。現実になってほしい願望ではなく現実ではありえないからこそのロマンだ。

ボクシングで人間がボコボコになりながら相手に向かって行くとなんだか興奮する。それをロボットでもない、サイボーグ物のSFだと人体欠損という形でその表現をさらに先鋭化させることができる。ガンダムだって最後はボロボロになりながら敵にくらいついていくのがかっこいいのではなかろうか。ただ本作においてアクションが表現としてうまいかどうかというと、正直何をやっているんだからぱっと見よくわからないところもあって繋がりが良くはない。だが描きたいシーンへの欲望みたいなものは強烈に感じるので、充分に楽しんで読めるだろう。ていうか主人公はそう名言しないもののしょっちゅう敵の首を引っこ抜くのでたぶん首引っこ抜きフェチなんだろう。それぐらい首をブチブチする。新しいではないか、首引っこ抜き系ヒロインって(こういう場合でもヒロインというのかよくわからないが)。

ガチガチのSFを期待するようなものでも、作劇のたくみさを期待するようなものでもない。二巻完結だしね。ガジェットのおもしろさとあまり表に出てこない設定を想像して楽しみながら(五度目の氷河期に対しての第五越冬隊がどのようにして氷河期を乗り越えようとしていたのかとか)、身体が欠損しボロボロになりながら敵の首をひっこぬく女の子達を楽しむ漫画だ。アクションあんまりうまくないっていったけど、二人の主軸になる女の子のコンビネーションアクションはかなり良かったと思う。無口突撃サイボーグ女と、状況に流されっぱなしで自分の身体のローンのことばっかり心配する図太い女同士が仲良くなっていく過程に燃えろ。

キヌ六(1) (アフタヌーンKC)

キヌ六(1) (アフタヌーンKC)

キヌ六(2)<完> (アフタヌーンKC)

キヌ六(2)<完> (アフタヌーンKC)