ヤングアダルト系のSF……といっていいのかどかわからないが、ジュブナイルSFとでもいったほうがいいのか。ただSF設定そのものについてはほのめかされるだけでガッツリ設定が語られるわけではない。240ページ程で、ぎゅっと詰まっている。女の子4人(+1人)を主軸にした作品で、彼女たちの心情の変化を追っていく方がメインだろうし、面白い。文章が心地よく、物語の性質上比喩などを用いないロジカルな語りに終始する一人称小説であるものの、その制限を逆手にとった直喩表現などはああなるほどそうやるのかと感心する。文体というか描写だけで楽しめるタイプの作家だ。こういうのは原文で読んだほうが楽しいだろう(というかこういうのは翻訳されないからな)。
序盤はなんだかとっても不思議な作品だというぼんやりとした印象で始まる。島で四人の女の子と、大人の男女二人が共同生活をしているのだ。四人の女の子のうちの一人、ヴェロニカが語り手役。彼女たちの物心がつくまえに飛行機事故で島に流れつき生き延びたのが彼女たちだけであるというざっくりとした説明がされ、あとはなんだかよくわからないが島でたった6人で暮らす彼女たちの生活が延々と描写されていく。飯はどうしているんだ? とか、なんでどこからも救助がこないわけ? とか、何でこの状況に誰も疑問を抱かないわけ? 脱出しないの? と疑問だらけだがそのあたりはヴェロニカの視点には入ってこない。彼女はこの状況に何も疑問を抱いていないからだ。
妙に同質的な彼女たちは日中は主に大人の男女二人によって授業を受けている。授業といっても昼寝をしたり、散歩にいったりゆるいものだが。その授業はだいたいが「彼女たちに個性を与えようとする」ものだ。別々の場所に散歩させてそれを報告させる。一つの事象をみせてそれに対する見解をみな個別にのべる。たとえばムカデの足はどうしてこんなにたくさんあるのか、どうやって機能しているのかについて。また檻に入ったオウムの写真から何が読み取れるのかなどについて。後者なんかはうまくて、比喩表現が使えないヴェロニカに変わって「籠にとらわれたオウム」を直接的に提示してみせることで直喩表現として彼女たちの状況を示している。
少女たちが新たな認識を覚えて自分たちの知る島だけが世界ではないのだと知っていく過程は読みどころのひとつだ。何歳ぐらいなのかは特に明言されないが、世界認識としては非常に幼い。ずっと島で暮らしているために彼女たち以外の人間がいるという認識がまずないし、両親という存在への認識もない。島の外に世界が広がっているという認識もない。そんな知識ガバガバな状態であらたなことを知って、あれこれ考えたり驚いたり、そうした経験をつうじて均質性の高い彼女たちはそれぞれの個性を備えていく。
最初は「大人の男の方が女の子を夜な夜な手篭めにしている暗い話なのかな??」と思いながらドキドキして読んでいたのだがそういうこともなく普通に良い人に描かれてるんだよね。途中で島に嵐に巻き込まれた船の生存者であるMayが流れ着いてきてから状況が一変していく。今まで誰も疑問を感じていなかった島の生活(ただし変なことばかり)にMayは恐怖し、おかしさに気が付き、次第にその場所から逃げ出そうとする。読んでいる方は「Mayがおかしいのか本当に島がおかしいのかよくわからない」と思うがままに読み進めていくのだが、島の状況がMayによって明かされていくにつれて「なんだか怖い島で起こりつつある事態」というホラー小説からサスペンス小説へとその性質を変容させていく。
おかしいといえばどこもかしこもおかしいのだが、しかし状況的には悪くない、なんだか気味が悪い……というのが前半のホラー展開だとしたらMayによってタネが明かされた後の状況は恐怖からいかにして逃げるのかというサスペンス小説になる。ぎゃああーーーMayの言っていたことは本当だったーーーと読者が絶叫している間もヴェロニカ達はそうした状況が認識できずに(自分たちのやっていること、やられていることが当たり前すぎておかしいと気が付かない)Mayは何をいっているんだかという状況がもどかしい。
このあたりの描写は本当にうまい。ガチッと切り替わるというよりかは、ひたっひたっという感じでネタがわれていくかんじ(よくわからない表現だが)。世界設定は謎だらけで最終的にもほとんど明かされることはないのだが、YAだからこんなもんだろうという感じ。それよりも語りと丁寧な少女たちの描写が面白い小説であった。
- 作者: Gordon Dahlquist
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